【東京=22日】8月3日、マルコス大統領亡命直前の最後の72時間を描いたとされる映画がフィリピン全国の映画館にて公開される。ここに描かれる内容が明らかになるにつれ、戒厳令の出来事をめぐる論争も激しさを増している。
― 映画「マラカニヤン宮殿のメイド」(Maid in Malacañang)
今、最も注目を集めるダリル・ヤップ監督がVIVA Filmsで制作した『メイド・イン・マラカニアン』は、1986年の「ピープルパワー革命」でハワイに逃れる前のマルコス家の最後の72時間を「信頼できる情報筋」の目を通して描いたドラマ映画です。
この映画は、これまで誰にも語られることのなかった、ファースト・ファミリーの明るくのんきな一面を見せてくれるでしょう。また、ファースト・ファミリーを、より親しみやすく、そして、強い絆で結ばれたフィリピンの一般家庭と同じものであると伝えるために、さまざまな登場人物やストーリーを配置しました。それは、あらゆる困難を乗り越えて団結するフィリピン人家族の真骨頂です。(マニラブレティン紙の映画紹介文)
― 隠された事実!?
映画の紹介に際し、俳優たちや登場人物の1人であるアイミー上院議員は、マルコス一家一人一人の魅力や「隠された(歴史の)真実」について熱く語り、これまで語られてきた戒厳令とマルコス一家に関する歴史に関して修正する必要性を訴えている。
「これは単なる映画ではありません。これは歴史なのです。フィリピンの一部なのです。ですから、私は、この映画をもっと多くの人に見てもらいたいと思っています。」(アイミー上院議員を演じるクリスティン・レイエス)
「この映画は、語られるべき真実を明らかにするものだと思います。私は論争を求めているわけではありません。私は論争を求めているわけではありませんが、残念ながら、最終的にはいくつかの真実が語られ、いくつかの嘘が論破されなければならないでしょう。」(アイミー上院議員)
「歴史は噂話のようなもので、沢山のフィルターがかけられて真実がかなり曲げられてしまっています。」(マルコス一家次女イレーネ・マルコス-アラネータを演じるエラ・クルス)
― 歴史修正への批判とトロール部隊との闘争
多くの歴史学者や人権団体は、「隠された真実」は根拠のない虚偽であると強烈な批判を浴びせている。戒厳令犠牲者の会は、「『マラカニアン宮殿のメイド』が戒厳令による殺人、拷問、強制失踪を修正しようとするマルコス一家の新たな試みかもしれない」と警戒を露わにする。戒厳令中に拷問された経験を有するボニファシオ・イラガンは、「(マルコス・シニア元大統領夫人の)イメルダの病的な『真、善、美』の伝統に沿った、マルコス一家の公式的な復帰のための『芸術的な』ねつ造だ」「この映画が、一家をエドサ蜂起の哀れな犠牲者(国民の同情を買い、今や正義を貫いた)として描いても、私は驚かないだろう」と語った。さらにイラガンは、戒厳令犠牲者の会が、この映画に対して何らかの対抗措置をとることを強調した。
フィリピン歴史学者たちも危機感を募らせている。フィリピンの代表的な歴史学者であるアンベス・オカンポ博士は、上で紹介したエラ・クルスの発言を危険な発言と受け止め、「歴史には確かに偏見が入っているかもしれない。しかし、事実の上に成り立っており、意見の上に成り立っているのでは決してない。本当の歴史とは、嘘でもフィクションでもない、真実なのだ」と自身のフェイスブックで反論した。
現在、オカンポ博士の反論は、ソーシャルメディア荒らし、通称トロール部隊のターゲットとなっている。ソーシャルメディアは博士への罵詈雑言で溢れかえった。オカンポ博士は、7月18日のオンライン番組で「(30年の研究活動の中で)これほど悪質な発言を投げかけられたことはなかった。このような言説は見たことがない」と語った。
番組の中で、博士は、彼へのネット攻撃が大統領選で「間違った歴史の立場に立つな!」と呼びかけた5月頃を境に激しくなったことを明らかにし、安易にトロール部隊のレベルに議論を落とすのではなく、これまで同様の歴史に基づいた著述や発言を紙媒体のみならず、ソーシャルメディアでも積極的に行っていく必要性を語った。
〈Source〉
Defending Ambeth, history, Inquirer, July 17, 2022.
Ella Cruz stands by ‘history is like tsismis’ claim in vlog with Senator Imee Marcos, Philippine Star Life, July 10, 2022.
Historian Ambeth Ocampo calls on fellow academics to reclaim social media as space for truth, ABS-CBN, July 13, 2022.
Maid In Malacanang: Stars prepare for their roles of a lifetime, Manila Bulletin, June 29, 2022.
Martial law survivors ready vs ‘Maid in Malacanang’ whitewash, Inquirer, July 4, 2022.
Sen. Marcos on ‘Maid in Malacanang’ movie: ‘No leeway for falsehood’, ABS-CBN, July 18, 2022.