ドゥテルテ政権、鉱山開発再開に続いて
鉱山露天掘りも解禁

【写真】放置された露天鉱山=2013年2月、北スリガオ州クラベール町、栗田英幸撮影)

【東京=5日】昨年4月に新規鉱山開発許可手続き凍結を9年振りに解除したドゥテルテ政権は、2017年より禁止していた露天掘り鉱山の解禁に踏み切った。

― 露天掘り解禁

 ロイ・シマツ環境天然資源省(DENR)長官は、12月23日の会見で、2017年に施行された露天掘りを禁止する省令を無効化する新たな省令にサインしたことを明らかにした。この省令No. 2021-40により、銅、金、銀、それらを含有する鉱石の露天掘りを認めることとなった。DENRは、パンデミックにより逼迫するフィリピン政府の財政と国民経済に露天掘り鉱山が大きく貢献することを強調するとともに、露天掘りが世界的に受け入れられている手法であり、環境に配慮した技術が既に確立していることを説明した。
 効力を失った省令は、2017年に当時DENR長官を務めていたレジーナ・ロペスが全国全ての中規模・大規模鉱山を調査した結果、露天掘り採掘による環境への破壊的影響を鑑みて発行されたものである。

― 財務省長官としても、鉱業調整評議会議長としても、気候変動委員会代表としても、露天掘り解禁を支持します

 12月31日、カルロス・ドミンゲス財務省長官は、「私は鉱業調整評議会の共同議長として、露天掘り採掘の禁止を解除するというロイ・シマツDENR長官の決定を支持します。 この問題は評議会でも広く議論されました。専門家からの助言と指導を受けた後、(評議会でも)禁止解除が推奨されています」と述べた。彼は、現在凍結されている11の露天掘り鉱山プロジェクトがすぐさま110億ペソの税収をもたらし、250億ペソの年間輸出と2万2880人に雇用を与えることになるとのDENRのデータを用い、財務省の長官として歓迎する意向を述べた上で、ドゥテルテ政権の気候変動委員会の代表として、環境への影響とのバランスが重要である点も強調した。

― 残酷なクリスマスプレゼント

 鉱山開発の問題に取り組む市民組織Alyansa Tigil Mina(鉱山開発を止めるための連盟:ATM)は、12月28日に以下のような声明をウェブサイトにて公表した。

 ATMは、露天掘りの解禁に関する省令への署名に深く失望しています。これはDENRからの残酷なクリスマスプレゼントであり、シマツDENR長官とドゥテルテ大統領による実に卑怯で皮肉な裏切り行為です。
 気候変動が台風オデットのような壊滅的な台風をもたらす現在、露天掘りの禁止を解除することは、政府の近視眼的で見当違いな開発優先事項となっています。繰り返しになりますが、ドゥテルテ政権は、パンデミックからの回復の一環として、破壊的な鉱業を「不可欠な産業」として分類する欠陥ある経済アジェンダを重視しています。
 これは、歴史的にも統計的にも、真実ではありません。 ATMは、残りの森林や天然資源を略奪しようとするこの政府の努力に抵抗し続けます。私たちは、鉱業に反対し続ける、鉱業から影響を受けたコミュニティや地方自治体を支援します。
 これ(露天掘り解禁)が2022年の選挙に全ての環境保護論者に積極的な参加を促すような、皆の目を開かせる大きな争点になることを願っています。すべての環境グループは、ドゥテルテ流(の政治)を拒否し、私たちの天然資源または環境を破壊・略奪するような多くの政策を推進するマルコスの帰還を防ぐために団結しなければなりません。

 12月29日、環境市民組織Kalikasan People’s Network for the Environment は、ATM同様に、環境と生活を破壊する露天掘りの再開を批判し、露天掘り解禁が2022年選挙において鉱山を支持する「ドゥテルテ-マルコス マフィア」への反対キャンペーンの争点となったと語る。

― 候補者は未だ明確な鉱業政策を示さない

 多くの人権環境組織がマルコス大統領候補に対して、ドゥテルテ大統領後継や鉱業推進派といったレッテルを貼る一方、鉱業界では鉱業再開の動きを歓迎しつつも、その見通しの不透明さを憂慮している。
 ウェブジャーナル・ビジネスワールドからのe-mailインタビューに応じたフィリピン鉱業会議所のロナルド・レシドロ会長は、2022年選挙候補者が明確な鉱業政策を示していないことを指摘し、将来を見越した長期的な鉱業政策立案の必要性を提起する。彼は、鉱業界が、特にこの2年間の政策の変化を慎重に、しかし楽観的に捉えてきており、次の政権下ではフィリピン人が鉱業利益の恩恵を強く感じ取れるようしていきたいとの抱負を語った。

【解説】露天掘りと坑道掘り

 埋蔵鉱床のタイプによって、効率的な鉱石採取方法は異なる。一般的な傾向として、大規模な鉱床や品位の低い鉱石では、坑道でなく表土を全て取り除いた後に採掘する露天掘りの方が効率的であると言われている。フィリピン政府が期待する経済メリットの大きな鉱床も、露天掘りに適したタイプである。他方、多くの場合、環境に与える影響は、露天掘りの方が坑道掘りと比べて著しく高い。そのため、環境保護や人権擁護を目的とする多くの市民組織は、露天掘りに対して強く反対する。

〈Source〉
ATM Reaction on Signing of DAO 2021-40; on DENR Lifting of the Ban Open Pit Mining, ATM, December 28, 2021.
DENR lifts ban on open-pit mining; anti-mining alliance reacts, CNN Philippines, December 28, 2021.
Mining sector getting back on track, Phil, Philstar, January 4, 2022.
DOF backs lifting of open-pit mining ban, Philstar, January 1, 2022.
Group slams lifting of ban on open-pit mining in PHL, Business Mirror, December 29, 2021.
Miners see no clarity on industry policy from 2022 candidates, Business World, January 2, 2022.

美しい国フィリピンの「悪夢」

フィリピン政府が行っている合法的な殺人とは?

詳しく見る

最新情報をチェックしよう!
>ひとりの微力が大きな力になる。

ひとりの微力が大きな力になる。


一人ひとりの力は小さいかもしれないけれど、
たくさんの力が集まればきっと世界は変えられる。
あなたも世界を変える一員として
私たちに力を貸していただけないでしょうか?

Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

寄付する(白)