栗田英幸(愛媛大学)
日本の市民団体も密接な交流のあるボホール島の市民団体から、フィリピン国軍による深刻な人権侵害に関して支援を要請する手紙が届きました。今なお続く市民活動への抑圧の深刻さや卑劣さが伝わってきます。当人にも了承を得て、彼女らが直面する事態が分かる部分のみを抜粋して、この場で以下、共有させていただくことになりました。抜粋のため、唐突な終わりになってしまっていますが、ご容赦ください。
なお、本人の特定ができないよう名前は伏せさせていただきました。
以下、Aさんからの手紙の抜粋――――――――――――
私は、フィリピンのボホール島を拠点に活動する人権擁護者のAです。 人権擁護の仕事に携わってすでに30年以上になります。 私は現在、ボホール州で女性と子どもの権利と福祉のために活動する市民団体である女性開発センター(WDC)の事務局長を務めています。
現在、私自身とコミュニティ・オーガナイザーとして働いているスタッフが重大な危険にさらされています。現状を少しでも改善するため海外の皆さんからの支援と介入を求めるためにこの手紙を書いています。
私は、小さなコミュニティと協力し、土地の権利や女性の権利を守る活動に従事しています。そして、人々を支援することで、国軍や国家警察、政治家等から脅迫され、嫌がらせを受け、そして、集中攻撃にさらされることは、すでに活動の一部となっています。 とはいえ、ロドリゴ・R・ドゥテルテ前大統領、そしてフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領の政権下で、私たちの状況は、さらに深刻になっています。
2013年にボホール島を襲ったマグニチュード7.2の大地震の後、私たちの活動地域の1つであるボホール島タグビララン・カトリック教区で、復興プロジェクトとしてボランティア活動を始めました。すると、私や私の仕事に対して、共産主義者だと批判し脅迫する文書やメッセージが頻繁に届くようになったのです。 その時には司教でさえ、2人以上の国軍将校に呼び出されました。そして、彼らは司教に対し、私がフィリピン共産党(CPP)-軍事部門(NPA)-民族民主戦線(NDF)のメンバーであり、私たちが実施したプロジェクトは共産主義の「隠れ蓑」だと説明したのです。
フィリピンで赤タグ付けや超法規的殺害が盛んだった2020年4月17日、白い車に乗った5人の男 (そのうち3人はジャケットを着ていました)が車から降り、私の家に来て私を探しました。 彼らは身分証明書を持たず「大統領府から来た」と自己紹介しました。 私たちが携帯電話で2人の写真を撮ると、彼らは怒って携帯電話を没収しようとしました。 私たちが警察を呼ぼうとしていることを知ると、彼らはすぐに立ち去りましたが、5日後にまた戻ってきました。 警察は「調査中であり、大統領府にはそのような名前と顔の人物はいない」と言って、この事件を警察の記録簿に記載しました。
その後、彼らの人相と写真は、別の NGO 職員であるカルミロ・タバダと市民団体フマボル(HUMABOL: Hugpong Mag-uumang Bol-anon、ボホール農民連合)の議長であるジョマール・ポギオを脅迫した人物と一致していることが分かりました。 そして、彼らの車が、ボホール州バリリハンのバランガイ(最小自治単位)役員を殺害した際に利用されていたものと同じ車種であることも判明しました。それ以来、私は家を出て、パートナーであるコミュニティや個人宅、宗教団体の修道女たちの世話になりながら、安全な場所を渡り歩いています。 それはとても大変で、本当にストレスの多いものでしたが、私は自分の命を守るためにこの状況を生き抜かなければなりません。
身を隠す生活を続ける中、私とスタッフでありコミュニティ・オーガナイザーであるBは、2020年12月14日に国軍によって、でっち上げの殺人と殺人未遂容疑で起訴されました。私たちがそれを知ったのはかなり後になってからです。そして、このような国軍のでっち上げ起訴は、私たちを誘い出そうとしているようにも見えます。
限られた条件ではありましたが、私たちは、私たちに対するこれらのでっち上げの事件を取り下げるよう裁判所に求める署名活動を行いました。 組織、ネットワーク、友人、親族、特に私のことを良く知っている人たちの協力で、2021年2月8日に裁判所はこれらの事件を取り下げてくれました。
この間、私の兄弟、同僚、親戚は、黒っぽいジャケットを着て、脇に銃器を持っていると思われる(ジャケットの下に銃らしきものを隠している)男たちが私たちの所在を尋ねてきたと報告しています。また、勤務先での監視も時折見受けられました。
2カ月ほど前、私の弁護士が、次のことを教えてくれました。国軍は私とスタッフを7件のでっち上げ殺人未遂事件で起訴し、それを受けてビラール町の裁判所が私たちに対して逮捕状を出したのです。 検察の決裁書は2022年8月1日付けでした。恣意的で適正手続もなされていません。私たちは訴訟を起こされたことを知らされていなかったので、事実上、私たちの無実を示す反論や証拠を提出し、公正な裁判を受ける権利を否定されたことになります。12月16日の土曜日、私は弁護士から、裁判所が7件の殺人未遂事件について、保釈金を1件に対して3万6000ペソ(8万7000円:1ペソ2.42円)を提示してきたと聞かされました。7つの訴訟ですから1人の人間の一時的な自由のためのみに合計25万2000ペソ(61万4000円)、2人で50万4000ペソ(62万800円)もの大金が要求されていることになるのです。
以下、略
以上―――――――――
上記問題に関して、時間的な余裕もないため、今回は関係者のみで支援方法を協議・実施することとなりました。また、後日、支援をお願いしたり、続報を共有させていただいたりすることになるかもしれません。その際には、よろしくお願いします。
ボホールでの人権侵害に関しては、以下もご覧ください。
続くボホール小農民・活動家への抑圧, Stop the Attacks Campaign, 2021年7月1日.