【15日=東京】フェルディナンド「ボンボン」マルコス・ジュニア(以下、「ボンボン」マルコス)大統領の政権スタートから2週間が経過した。未だに重要ポストのいくつかは空席だが、7月5日の最初の閣議の結果を経て、さまざまな動きが活発化している。ここでは、第一回閣議以降の主だった動きとして、地方共産党の武装闘争を終わらせるための国家タスクフォース(NTF-ELCAC)改革をめぐって相反する動き、環境天然資源の長官人事、大統領汚職委員会や内閣官房長官室の廃止、ブロガーの登用を視野に入れた報道長官室の設置について紹介する。
― 人権を守るNTF-ECLAC(?)と既存活動の継続を望む人びと
7月7日、クラリスタ・カルロス国家安全保障顧問は、NTF-ELCAC事務局との会合を開催した。カルロス顧問は、現職に就いて以来、赤タグ付けによる共産主義対策は効果が薄く、対話とコミュニティへの支援を軸にすべきであると主張し続けてきた。この日の会合に関してNTF-ELCACは、「組織の最終目標である国全体における地域の平和、開発、安全の達成に向けた動きを促進するために、プロセスの強化、特に監視と評価のメカニズムの改善を促された」とSNSを通して明らかにした。そして、会合の翌日、ロンメル・バンラオイ国家安全保障副顧問は、NTF-ELCACが新政権下で人権を守ることを保証した。
一方、ドゥテルテ政権の下でNTF-ELCACを支持してきたフィリピン警察元長官のロナルド・デラ・ロサ上院議員は、7月6日、国家安全保障顧問らの主張に反して、ドゥテルテ政権時代のNTF-ELCACの活動を制度化するための法案を上院に提出したことを明らかにした。デラ・ロサ上院議員は、NTF-ECLACの反共産主義活動の成果を説明し、未だ危険は去っていないとして、その組織と活動の継続を強く訴えた。
7月8日、国営フィリピン通信社は、フィリピンの調査コンサルタントPUBLiCUS Asiaの結果でNTF-ELCACの存続を望む声が56%、望まない声が13%、どちらとも言えないが31%であったことを公表し、フィリピン国民の大部分がその存続を望んでいることを強調した。
― 農業保護と食糧供給への不安
「ボンボン」マルコス大統領が長官職を兼任することからも明らかなように、農業省(DA)は最も注目されている省庁の一つである。大統領選挙前から農業を最優先分野の一つと位置づけていた「ボンボン」マルコス大統領は、7月6日の記者会見において、強い経済を構築する鍵として、国の農業部門を苦しめる問題に対して長期的な解決策を提供することを約束した。大統領は、コメ、トウモロコシ、肉類、魚介類の分野で生産不足となっており、「緊急時でも食糧供給を保証する強固な農業部門という基盤がなければ、強い経済を構築することはできない」と述べた。
「ボンボン」マルコスは同記者会見において、長期的視野に立った農業分野の垂直統合と食糧増産による輸入代替の重要性について述べたが、ウクライナ情勢やインフレ等の世界情勢を鑑みると畜産に関しては輸入に頼らざるを得ないとの認識を示した。
7月8日、シルベストロ・ベーロIIIマニラ経済文化室長は、この日、「ボンボン」マルコス大統領がベーロ室長に台湾との農業技術連携を強めるよう指示したことを明らかにした。また、11日にレイドイン・モラレス農業省畜産局長は、農業省が既に養鶏価格の安定化と低コスト化のための介入を強化し、その成果を上げつつあることを明らかにした。
一方、農業関係組織からも多くの要望が寄せられている。フィリピン農産物市場を荒らしてきた農産物密輸入の摘発強化、今後の生産量不足と消費者価格の高騰が予測されるトウモロコシの輸入増大、予測される深刻な食糧不足へ対処するための緊急事態宣言の実施、農地収奪から農民と農業を守るための農地転換禁止措置、そして、数多くの分野への予算や補助金、輸入優遇措置、等々が求められている。
― 道路建設・改修事業に重点を置く公共事業道路省
「ボンボン」マルコス大統領は選挙公約として、ドゥテルテ政権の「ビルド(Build)!ビルド!ビルド!」(インフラ建設、以下BBB)プログラムの効率的な継続を約束していた。マニュエル・ボノアン公共事業道路省(DPWH)長官は、7月7日に「ボンボン」マルコス大統領から食糧の輸送等、食糧安全保障に貢献するインフラの整備にBBBプログラムで取り扱うプロジェクトの優先順位を付けるよう指示を受けたと明らかにした。ボノアン公共事業道路省長官はまた、官民パートナーシッププログラムを通して国内道路ネットワークの整備に重点を置く方針を述べた。そして、7月10日、公共事業道路省は、官民パートナーシップの下で優先的に実施される多くの大規模道路建設・整備プロジェクトを公共事業道路省ウェブ上で公開した。公共事業道路省のプロジェクトと予算編成に関しては、7月15日に予定されている2回目の閣議で取り扱われる。
― 環境天然資源省長官:気候変動のプロフェッショナルでマルコス夫人の従姉妹
7月12日、「ボンボン」マルコス大統領は、トリクシー・クルス・アンヘレス報道官を通して、気候変動提唱者であるアントニア・ユーロ・ロイサガを環境天然資源省(DENR)の長官として指名したことを発表した。ロイサガの環境天然資源省長官への指名に対して、カリカサンやグリーンピース・フィリピン等の市民環境組織は支持を表明したが、カリカサンのナショナルコーディネーターのレオン・ドゥルセは、ロイサガが従姉妹であるライザ・アラネタ・マルコス大統領夫人に影響されてしまう懸念についても言及した。
一方、市民環境組織から常に批判を浴びている大規模鉱山会社で構成されるフィリピン鉱業会議所は、「経済発展と環境保護」とのバランスをとること、ロイサガの提唱する持続可能な開発目標や気候変動対策に関して、ロイサガのリーダーシップの下で「ボンボン」マルコス政権と協力する用意があると述べた。
― 統廃合される組織
6月7日、「ボンボン」マルコス大統領の大統領として最初の指令(行政命令第1号)は、2つの既存組織を廃止し、新たに1つの組織を設立することであった。廃止組織の1つは、ドゥテルテ政権下に組織された大統領汚職防止委員会(PACC)である。行政命令第1号により大統領汚職防止委員会は廃止され、その管轄、権限、機能は法務担当事務次官室に移管されることになった。
廃止されたもう1つの組織は内閣官房長官室である。既存の内閣官房は大統領経営参謀本部の直轄となった。行政命令第1号は、「官僚機構の簡素化、経済性、効率性を達成するために、政権は、大統領府と様々な付属機関や事務所を再編成し、重複する公的機能を廃止することによって、公的プロセスと手順を合理化しなければならない」とその理由を述べている。
行政命令第1号は、さらに、大統領特別補佐官室の管理下に軍事・警察問題担当大統領顧問室を創設した。大統領特別補佐官は、北ダバオから選出され下院議員を3期務めた「ボンボン」マルコス大統領長年の盟友でもあるアントン・ラグダメオが任命されている。
続く行政命令第2号は、大統領通信作戦室(PCOO)とその付属機関を報道長官室(OPS)に改編・統合するものであった。この結果、報道長官室は大統領に代わって、大統領の行動、政策、プログラム、公的活動、業績に関する事柄を発表する権限を持つことになった。また、報道長官室は、「民間メディアやその他同様の団体、利害関係者との関係を構築し維持する」ことも義務付けられている。報道長官室のトリクシー・クルス・アンヘレス室長は、先月末の記者会見で政府の情報戦略にブロガーを積極的に利用する重要性とその準備がすでに開始されていることについて述べている。
〈Source〉
56% of Pinoys back NTF-ELCAC’s continued ops: poll, PNA, July 8, 2022.
Amid reorganization rumors, NSA Carlos meets NTF-ELCAC Secretariat, Manila Bulletin, July 8, 2022.
Bato dela Rosa files bill institutionalizing NTF-Elcac, Inquirer, July 6, 2022.
Climate change advocate picked as next DENR chief, Inquirer, July 13, 2022.
DPWH vows continuity of vital ‘Build, Build, Build’ projects, PNA, July 7, 2022.
ELCAC Act will sustain momentum vs. insurgents: senator, PNA, July 8, 2022.
Farmers’ group to Marcos: Declare a moratorium protecting agricultural lands, Inquirer, July 6, 2022.
Farmers watching agri budget for clues on DA food program, Manila Times, July 13, 2022.
Food chamber calling on Marcos to declare state of calamity for food sufficiency, CNN Philippines, July 9, 2022.
Gov’t acts on high prices of poultry products, low chicken supply, Manila Bulletin, July 12, 2022.
‘If Marcos can’t stop agricultural smuggling, no one can’, Philstar, July 10, 2022.
Marcos’ 1st EO: Abolish Presidential Anti-Corruption Commission, Office of Cabinet Secretary, Philstar, July 7, 2022.
Marcos expecting agri-tech takeaway from ties with Taiwan ?Bello, GMA, July 8, 2022.
Marcos puts focus on economy in first Cabinet meeting, Business World, July 6, 2022.
Marcos scraps antigraft body created by Duterte, ANN, July 8, 2022.
NTF-ELCAC will uphold human rights under new admin, says Deputy NSA Banlaoi, GMA, July 8, 2022.
PBBM makes agriculture top priority; vows to cure sector’s problems, PNA, June 6, 2022.