「ボンボン」マルコス新政権の
報道の自由への対応は?

【写真】 5月26日に行われた大統領就任決定後初の「記者会見」/「ボンボン」マルコスフェースブックより(2022年5月27日投稿)https://www.facebook.com/photo/?fbid=562368158591102&set=pcb.562368208591097219400312054/

【東京=3日】ドゥテルテ政権の下で大きく抑圧されてきた報道の自由に関して、「ボンボン」マルコスが今後どのように対応するのかに注目が集まっている。「ボンボン」マルコスのこれまでのマスコミ対応からは、ドゥテルテ政権の作り出した報道の不自由さが継続されると予測される。「ボンボン」マルコス自身は、報道の自由を尊重する旨の発言を何度もしているが、大統領就任決定後の彼の行動は、その懸念を払拭するどころか、懸念を強めることとなっているのである。

― 最初の記者会見に招かれたメディアはたったの3社

 5月26日、「ボンボン」マルコス当選後、最初の「記者会見」が開催された。しかし、この記者会見には、わずか3社からそれぞれ1人のレポーターが招待されたにすぎなかった。他のメディアは、「ボンボン」マルコスの公式フェースブックを見て初めて「記者会見」について知ったという。

 3人は、それぞれアポロ・キボロイの所有するSMNI、イグレシア・ニ・クリストの管理するNET25、そして、フィリピン最大手メディアの一つであるGMAニュースのレポーターである。イグレシア・ニ・クリストは、2016年選挙でロドリゴ・ドゥテルテを大統領、「ボンボン」マルコスを副大統領に公式的に支持し、今回の選挙でも「ボンボン」マルコスとサラ・ドゥテルテ・カルピオによるユニチームの公式的な支持を表明した。
 ちなみにキボロイは、ロドリゴ・ドゥテルテの盟友として2016年の大統領選でドゥテルテを支持し、今回の選挙では、「ボンボン」マルコスのユニチームを支持した。ドゥテルテは、大統領時代にしばしばSMNIを利用するようになり、SMNIはドゥテルテの大統領就任にあわせて放送の全国展開を果たした。
 キボロイは、また、新興宗教イエス・キリストの王国の創設者で自身を「神の息子」と呼び、2016年の選挙ではドゥテルテの勝利を、今回の選挙では「ボンボン」マルコスとサラの地滑り的勝利を「予言」した。他方で、キボロイには、数多くの不正や性犯罪の疑惑が付きまとっている。2020年には米国ロサンゼルス検察当局が彼の教会への強制捜査を実施し、翌年2021年11月に数多くの犯罪行為に関する74ページにも及ぶ起訴文を発表した。現在、キボロイはFBIに指名手配されており、今後米国からの身柄引き渡し要求が出された際のフィリピン政府の態度が注目されている。

― インタビューでマルコスの「傷」には触れず 

 「ボンボン」マルコスの秘書官に既に任命されているビクター・ロドリゲスによれば、この記者会見は、選挙中に3社と「ボンボン」マルコス陣営の間で交わされた「当選したら1対1のインタビューを許可する」との約束に沿って行われたものであるという。しかし、実現したインタビューも、実際には1対1のインタビューではなかった。既に「ボンボン」マルコス(次期)大統領の広報室(PCOO)の室長に任命されているトリクシー・クルス・アンヘラの仕切りにより、3人それぞれの質問に「ボンボン」マルコスが答える形式で行われた。この様子は、SMNIを通して生放送された。アンヘラは、弁護士であり、ブロガーとしても有名である。
 質疑は、閣僚人事、中国との西フィリピン海問題に対する姿勢、原油価格の高騰に対する解決策、国の農業部門の改善等について行われ、これまで「ボンボン」マルコスが無視してきた立候補資格や脱税による有罪判決、未払いの巨額な相続税、フェルディナンド・マルコス・シニア元大統領による戒厳令に関する歴史認識等には全く触れられなかった。

― 報道の自由に危機感を抱くメディア

 ロドリゲスは、また、このような一部のメディアとの会見は、選挙前の約束(上述)によるものであり、決して、今後の「ボンボン」マルコス政権のメディア対応を反映したものではないこと、メディアの友人を排除するようなことはしないと強調した。しかし、上述のようなロドリゲスの発言に対して疑問を投げかける声は大きい。なぜなら、選挙中、「ボンボン」マルコスは、記者たちに自身のスケジュールを知らせず、多くのメディアからの質問を無視し、また討論会も全て欠席しているからだ。
 メディアの自由と責任センターの理事であるヴェルジェル・サントスは、「ボンボン」マルコスが最初の記者会見で他の報道機関を排除したことについて、選挙中にも予兆はあったために驚くべきこととは考えていないと述べた。サントスは、「ボンボン」マルコスと報道機関との関係は、大統領在任中に悪化の一途を辿るであろうと予測する。「特に、彼の司法長官候補(ヘスス・クリスピン・レムリア)は、報道の自由とは何かについて、私たちと異なる考えを持っているようなので、事態はさらに悪化すると思う」と彼は語った。
 フィリピン大学ディリマン校のダニロ・アラオ ジャーナリズム教授は、「ボンボン」マルコスのメディアとの関わりや人事を鑑みると次期マルコス政権はすでに信頼性の危機を迎えているという。
 「特に、「ボンボン」マルコスが、コンテンツクリエイターやインフルエンサー、ブロガーを記者会見や活動時の取材陣として組み込む予定であることを考えると、彼らがメディア政策や報道を今後どう扱うかを予測するは難しい」と彼は言う。
 「控えめに言っても、(「ボンボン」マルコスのメディア対応は)とても混沌としている。」

― フェイクニュースを助長するブロガーの広報登用

 6月1日、アンヘラ次期大統領広報室長は、ブロガーを「ボンボン」マルコス次期大統領のブリーフィングに呼ぶ方針を明らかにした。室長は、この方針自体は、2017年にドゥテルテ政権の下で暫定方針として既に定められていたことを具体化するものだと述べた。さらに、ブロガー選定の基準や取材方法に関する質問に対しては、現代のメディアのあり方に即して今後詳細を詰めていくと曖昧に回答するに留まった。
 しかし、フィリピン大学のルシア・タンギ ジャーナリズム教授は、ブロガーを利用する政府の方針について、以下のような懸念を語った。

「まず、大統領広報室はどのような基準でブロガーを認定するのでしょうか? 編集者や出版社のような社会的責任の保証のないブロガーに、どうやって大統領広報室は責任を負わせることができるのでしょうか?これらのブロガーにどのような倫理的、編集的基準を課すのでしょうか?」

 タンギ教授は、ジャーナリズムの訓練を受けていないインフルエンサーやブロガーによって、フェイクニュースが大量に流布されている現状を指摘し、ブロガーに大統領の取材を許可することの「危険」を述べた。

〈Source〉
Accrediting vloggers a Palace media priority, Inquirer, June 2, 2022
‘Chaotic:’ Media experts wary of Marcos Jr.’s media treatment, ABS-CBN, May 27, 2020.
INC endorses Duterte, Marcos, Rappler, May 4, 2021.
L.A. paralegal to plead guilty to immigration fraud involving Philippines-based church, Loa Angeles Times, April 2, 2022.
Lawyer, vlogger Trixie Cruz-Angeles named Marcos’ press secretary, PNA, May 25, 2022.
Marcos excludes most of Philippine media in first presser, Rappler, May 27, 2022.

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