波乱の予算審議/再びターゲットにされるサラ/続く中国との摩擦
波乱の予算審議
― 上下院可決
12月9日、上院は、10月13日に下院を通過した2026年度予算案に関して、汚職問題で500億ペソの減額修正を伴う予算案(約6.7兆ペソ)を第3読会で可決した。上院議員たちは全会一致で賛成票を投じ、17対0の票決で承認された。
上院、下院、それぞれで可決した予算案は、両院合同委員会(Bicameral Conference Committee)により最終調整に向けたすり合わせが行われている。両院合同委員会での可決後、両院での最終調整を行い、大統領の署名を得て正式な国家予算として成立する予定である。
― 荒れる両院合同委員会
両院合同予算協議は、12月中旬に入って既に何度も開催されている。両院合同委員会は、上院と下院のそれぞれの予算案の異なる点を調整し、両院が同意できる「合同報告」(bicameral report)を作成する。
しかし、両院合同委員会は設立された12月11日以降、国家予算全体の条文や各省庁・機関への配分など、細部の調整を進めているが、12月13日、14日、16日の3回の合同委員会でも合意には至っていない。それどころか、汚職に関係する公共事業道路省(DPWH)の予算に関して、上院による減額案と下院の強力な反対が真っ向から対立した。
― 対立の焦点
上院財政委員長のシェルウィン・ガチャリアンは、DPWH予算削減について、「上院は過剰価格や非効率な公共事業に懸念を持っている」と述べ、削減は透明性と財政規律を確保するための判断であると説明した。彼はまた、DPWH関連の予算項目について「技術的な精査が必要であり、現状では下院案をそのまま受け入れることはできない」と述べ、上院として慎重な姿勢を崩していない。
これに対し、下院歳出委員会委員長のミカエラ・アンジェラ・スアンシングは、削減に強く反対する立場を示している。彼は、DPWH予算が削減されたままであれば、「全国で約9900件のインフラ事業が影響を受ける」と述べ、進行中または準備段階にある公共事業が停止する可能性を指摘した。
また、「既に計画され、資金配分が想定されていた事業が中断されれば、結果的に公的資金の無駄につながる」として、下院側は削減分の復元を求めている。
― 山場を超えた?
12月17日、両院合同委員会は、最大の争点となっていたDPWHに関して、合意に至った。結果的にDPWHの予算案は大幅に削減された。ここで削減された分の予算は、公的健康保険(PhilHealth)や自然災害対策基金などに分配される。
また、この合同委員会で本日サラ・ドゥテルテ副大統領の予算が復元されたと報じられている。
〈Source〉
Bicam moves to avert reenacted national budget, Manila Standard, December 18, 2025.
Bicam panel restores VP Sara Duterte’s budget to P889M, Inquirer, December 18, 2025.
Bicam postponed as Senate, House reach deadlock over DPWH budget, Philstar, December 15, 2025.
Deadlock on DPWH budget cuts forces Senate to postpone bicam meeting, Inquirer, December 15, 2025.
DPWH gets P529.6B budget for 2026, GMA News, December 18, 2025.
LIVESTREAM: Bicameral conference committee meeting on 2026 national budget – Day 3, Inquirer, December 16, 2025.
Senate approves P6.7-trillion national budget for 2026, ABS-CBN, December 9, 2025.
Senate postpones bicam over ‘deadlock’ on DPWH 2026 budget —Gatchalian, GMA News, December 15, 2025.
再びターゲットにされるサラ
― 再燃するサラの巨額横領容疑
12月10日、サラ・ドゥテルテ副大統領に対する6億1250万ペソの機密費不正使用の疑いで、プランダー(巨額横領)容疑が復活した。 この刑事告発は、複数の司祭、学者、人権擁護団体、ジャーナリストから成る市民連合が、監察官事務所に提出したものである。
告発では、サラと複数の関係者が名指しされている。告発状は、機密費が承認された目的以外の用途に振り向けられたと主張している。副大統領側はこの訴えを否定し、これを「別件釣り調査(fishing expedition:具体的な証拠がないまま何らかの材料が見つかるのを期待して行う調査のこと)」と呼んで告発者たちを非難している。
― POGOがサラに資金提供?
12月12日、サラ副大統領の元側近で「バッグマン(黒い金の運搬役)」とされるラミル・マドリアーガの宣誓供述書から、薬物取引関係者とPOGO(フィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーター、オンライン賭博業者)が2022年の副大統領選キャンペーンに資金提供したことが公表された。
供述書は、当時サラ・ドゥテルテ副大統領の「サラ・ドゥテルテ嬢を私の大統領に(Inday Sara Duterte Is My President)」 運動を支えたキャンペーン資金の一部が、ドラッグ取引やPOGO関係者から流入したと主張している。これについて、マニラ6区選出のビエンベニード・アバンテ下院議員は、監察官事務所と下院関係委員会に対してこの主張の調査を求めている。 調査要請では、POGOとドラッグ組織による資金提供が国家安全保障上の影響を持つ可能性を指摘している。調査が事実を明らかにするべきだとの立場も示されている。
― バッグマンの携帯に証拠?
12月18日、マドリアガが、自己の携帯電話3台についてフォレンジック検査(裁判の証拠となり得るデータを取り出す作業)の支援を求めて、国家調査局(NBI)に助力を要請した。
マドリアガは、これらの携帯電話に関連するデータが、自身が提出した供述書に記載された疑惑の「証拠」を含んでいる可能性があると述べた。彼は、これらの端末が監察官事務所の調査に役立つと考えていると述べている。
〈Source〉
‘Drugs, POGOs funded Sara’s 2022 campaign’, Philstar, December 12, 2025.
Plunder raps vs VP Sara Duterte revive secret fund issue, Inquirer, December 13, 2025.
VP Sara’s ‘bagman’ seeks NBI’s help for forensic exams on 3 phones, Manila Bulletin, December 18, 2025.
続く中国との摩擦
― 危険行為による負傷者
フィリピン沿岸警備隊(PCG)は、12月12日にフィリピンが領海を主張する南シナ海のサビナ礁にて中国海警局の船舶が20隻前後のフィリピン漁船団に対して行った攻撃的な活動によって、3人のフィリピン人漁民が負傷したと発表した。
PCGによると、中国海警局の船舶は、高圧放水砲を用いて攻撃し、錨の係留ロープを切断するなどの妨害行為を行なった。この結果、フィリピン人漁民3人が負傷し、漁船2隻が損傷を受けた。
フィリピン政府は、中国側の行為が国際海洋法上の安全規範に反する危険な行為であると非難している。
― 中国側の批判
中国外務省報道官は、サビナ礁(中国名・仙宾礁)付近での事案について、フィリピン側の船舶が組織的に同礁周辺に接近し、不法に侵入したと述べた。そのうえで、中国海警局はこれに対し、必要な管理・統制措置を取ったと説明した。
報道官は、中国側の対応について、合法的で、合理的、専門的であり、抑制の効いたものだったと述べている。また、フィリピン側の発表については、事実が歪曲されていると指摘し、中国の行動は中国の主権および海洋権益を守るためのものだと述べた。
さらに報道官は、米国は南シナ海問題の当事者ではないとしたうえで、第三国による関与は地域の緊張を高めるだけだと述べ、南シナ海問題は直接関係する国々によって適切に処理されるべきだとの立場を示した。
― 日本自衛隊機へのレーダー照射を非難
12月14日、フィリピン国防省は、中国軍が日本の航空自衛隊機に対してレーダー照射を行ったとされる事案を受け、これを非難する立場に加わった。同事案は中国軍機が日本機を「レーダーで標的化した」と日本側が発表したもので、フィリピンはこれを危険で緊張を高める行為として、他国とともに「非難」に参加した。
フィリピン国防省報道官アルセニオ・アンドロンは、正当な任務を遂行中の航空機に対するレーダー使用は国際空域において「容認できない」と述べ、同地域におけるルールに基づく秩序の維持が急務であることを強調した。また、「フィリピンは、威嚇や挑発ではなく、透明性、自制、国際法の遵守を選択する日本および全ての志を同じくするパートナーと共にあります」と述べた。
〈Source〉
China says Philippines distorted facts about incident near disputed atoll, Reuters, December 17, 2025.
Chinese PLA, CCG expel intruding Philippine aircraft, vessels, Global Times, December 12, 2025.
PH joins censure of China’s radar targeting of Japanese plane, Inquirer, December 14, 2025.
Philippines says fishermen hurt, boats damaged by China in South China Sea, Reuters, December 13, 2025.
US urged to stop interfering in South China Sea issues as Philippine personnel threaten CCG officers with knives at Xianbin Jiao: FM, Global Times, December 15, 2025.

