トランプ・ショックについてのコラム紹介/ドゥテルテ・ウォッチ/南シナ海情勢
トランプ・ショックについてのコラム紹介
― 南シナ海を巡る中国との駆け引きにおける、米国のプレゼンス低下
トランプ大統領の就任演説では「アメリカ第一主義」を強調し、国内問題への集中を最優先事項とする姿勢が示された。このアプローチは、アジア太平洋地域でのアメリカの関与を縮小させる可能性を持つ。特に、南シナ海(紙面では西フィリピン海)におけるアメリカの軍事的および外交的プレゼンスが低下する懸念がある。
アメリカはこれまで、フィリピンを含む東南アジア諸国の領有権主張を支持し、中国の影響力拡大を抑える役割を果たしてきた。しかし、トランプ政権が内政を優先し、国際問題への介入を控える方針を取ることで、中国がこの地域での主導権をさらに強化する可能性がある。
By ハイメ・ ヤンバオ (フィリピン大衆英字紙『マニラ・ブレティン』のコラムニスト)
― エネルギー価格低下かペソ下落か
アメリカのトランプ大統領の最近の政策発表は、フィリピンに対してさまざまな影響を及ぼすと考えられている。
トランプ大統領の初日の大統領令の一つは、アメリカのエネルギー生産を促進するため、新たな液化天然ガス(LNG)プロジェクトの輸出許可の手続きを再開するものだった。フィリピンは、国内の電力の5分の1を供給しているマランパヤ・ガス田の可採埋蔵量が2027年までに枯渇すると予想されており、その代替エネルギー源の確保はできていない。このため、アメリカの石油・ガス生産の増加により、エネルギー価格の低下が期待され、フィリピンにとって有益となる可能性がある。
しかし、他方では、アメリカのインフレや保護主義的な貿易政策が、フィリピン経済や米比間の貿易関係に影響を及ぼす懸念も指摘されている。トランプ大統領による大統領令や発言がアメリカのインフレに与える影響は多様であり予測は困難だ。一方では、インフレを最終的に抑制することを目的とした措置が取られ、他方では、カナダやメキシコに対する25%の関税提案がある。これらの国から年間約9000億ドルの輸入があるアメリカにとって、関税の増加はインフレを促進する危険をはらむ。アメリカのインフレ率が持続的に上昇すれば、連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締め政策を取る可能性が高まり、その結果、フィリピン・ペソが下落し、フィリピン中央銀行(BSP)の利下げ余地が制限されるかもしれない。
By レヴィン・オチャヴェ(フィリピンビジネス英字紙『ビジネス・ワールド』のレポーター)
― 過剰懸念より、過度な楽観論こそ懸念せよ
投資家の間では、トランプ大統領の成長重視の政策がインフレや金利の上昇を招くのではないか、また、輸入品への関税強化が経済に悪影響を及ぼすのではないかとの懸念が広がっている。しかし、これらの懸念は、前トランプ政権での経済パフォーマンスから過剰だと判断する。
警戒すべきは、トランプ大統領の下でのアメリカ経済に対する過度な楽観視だ。トランプ大統領は税制改革や規制緩和などの成長促進策を掲げているが、膨らむ財政赤字や債務問題への対処も必要だ。新設された「政府効率化省」や、財務長官に指名されたスコット・ベッセントの目標である2028年までに財政赤字をGDP比7%から3%に削減する計画は、政府支出の大幅な削減を伴う可能性がある。これらの支出削減策は、短期的には経済成長にマイナスの影響を及ぼす。アメリカ株式市場の反応とアメリカ株式市場の世界市場に対する高い影響力を考慮すると、世界経済が大きく振り回されるリスクがある。フィリピンも例外ではない。その煽りを強く受ける可能性がある。
By エイプリル・リー・タン(フィリピン大衆英字紙『デイリー・インクワイアラー』のコラムニスト)
〈Source〉
What Trump inaugural speech may imply about West Philippine Sea, Manila Times, January 25, 2025.
What Trump policies could bring for PHL, Business World, January 22, 2025.
Will a Trump presidency hurt the PH market?, inquirer, January 27, 2025.
ドゥテルテ・ウォッチ
― サラ副大統領弾劾訴追に関しての動き
1月27日、バギオ市で、全国から集まった教師たちがデモ行進を行い、サラ副大統領の弾劾を求めました。彼らは、前教育省長官であるサラ副大統領の政府資金の不適切な使用に対する責任追及を訴えた。このデモ行進は、1月31日にマニラや主要都市で予定されている全国的な抗議活動の前哨戦と位置付けられている。憂慮する教員同盟(ACT)の全国議長であるヴラディマー・ケトゥアは、2025年の予算案で教育予算が削減される一方、機密情報費が維持されていることに教師たちが強く不満を抱いていると述べた。新しい予算案では、教育全体の予算は1兆550億ペソとされているが、教育省のコンピュータ化プログラムなどに大幅な削減が見られる。
― 大統領府は弾劾妨害を否定
大統領府は、マルコス大統領がサラ副大統領に対する弾劾訴追を妨害しているとの一部議員の主張を否定した。ルーカス・ベルサミン官房長官は、弾劾訴追は下院の裁量に委ねられており、大統領がそれを阻止することはできないと述べた。マルコス大統領は弾劾に関する自身の意見を表明しているものの、下院に対して手続きを遅らせるよう指示しているわけではないと強調した。サラ副大統領に対する弾劾訴追は、憲法違反や公的信頼の背任などを理由に、現在3件が下院に提出されている。
― サラ副大統領らの暴行・強要に対する告発を棄却
ケソン市検察局は、サラ副大統領と彼女の警護責任者であるレイムンド・ラチナ大佐に対する直接暴行および強要の告発を証拠不十分として棄却した。この告発は、警察中佐で医師のヴァン・ヴィリアモールが、2024年11月に退役軍人記念医療センターからセント・ルークス医療センターへのズレイカ・ロペスの移送中に自身が暴行を受けたと主張して提出したもの。しかし、検察局は、ヴィリアモールの証言を裏付ける証拠がないことを理由に、告発を棄却した。
〈Source〉
Marcos not blocking impeachment move vs VP Duterte – Palace, Inquirer, January 24, 2025.
PBBM not blocking impeachment move vs. VP Sara – Palace, Philippines News Agency, Inquirer 24, 2025.
QC prosecutors clear VP Duterte of assault, coercion raps, Inquire, January 28, 2025.
Teachers set national rallies to demand VP Duterte’s impeachment, Inquirer, January 27, 2025.
南シナ海情勢
― 漫画で学ぶ主権海域
フィリピンでは最近、南シナ海問題に関する漫画『教師ジュンの物語(The Stories of Teacher Jun)』が発行された。40ページにわたる漫画では、教師ジュンとフィリピン人の若者たちが海洋問題や国際法上の主権について、南シナ海におけるフィリピンの主権を認め中国の主張を退けた2016年のハーグでの判決についても触れ、理解を深めていく。国家安全保障顧問のエドゥアルド・アニョが主導する取り組みであり、フィリピンの若者たちへの領海問題と領土主権への理解を促すことが目的となっている。
― トランプ政権下でも鉄壁の防衛コミットメント
1月23日、米国のマルコ・ルビオ国務長官がフィリピンのエンリケ・マナロ外務長官と電話会談を行い、南シナ海における「危険で不安定化を招く中国の行動」について議論し、米比相互防衛条約に基づく米国の「鉄壁の防衛コミットメント」を強調した。
これに対し、中国外務省の毛寧報道官は、アメリカは南シナ海問題の当事者ではなく、中国とフィリピン間の海洋問題に干渉する権利はないと述べた。また、米比間の軍事協力が中国の主権や海洋権益を損なうべきではなく、フィリピンの違法な主張を支持または促進するべきではないと強調した。中国は引き続き領土主権と海洋権益を断固として守り、南シナ海の平和と安定を維持するために必要な措置を講じるとしている。
〈Source〉
Philippines’ comic book fans anti-China sentiment, hinders resolution of S.China Sea issues: expert, Global Times, January 23, 2025.
Philippines stops research survey in disputed sea amid China’s ‘harassment’, Al Jazeera, January 25, 2025.
China responds to Rubio’s remarks on S.China Sea after his phone call with Philippine FM, Global Times, January 23, 2025.
Trump administration promises ‘ironclad’ support for Philippines’ security, Al Jazeera, January 23, 2025.