フィリピン政経フォーカス (10月10日-10月16日)

【写真】公聴会で暴露するガルマ元セブ警察署長(左)と厳格な裁きを誓うレムリア新内務自治省長官(右)、次の資料より筆者作成 Remulla: No sacred cows in probe of past admin's drug war, Philippine News Agency, October 14, 2024. Garma: CIDG-11 served as hub for Duterte’s reward-driven drug war , Philippine News Agency, October 14, 2024.

― 暴露するガルマとエスピノサ
 「私の部下を代表して、心からお詫び申し上げます。」
 これは、元セブ市警察署長のロイナ・ガルマが、セブでの違法ドラッグとの血みどろの戦いの犠牲者の遺族に涙ながらに謝罪した内容だ。
 10月11日に行われた下院の四委員会合同委員会では、セブのドラッグ戦争犠牲者の遺族らが出席し、前政権下のドラッグ戦争で何が起きたかについて証言した。
 ガルマはドゥテルテ政権時にダバオ市警察署長からセブ市警察署長に異動・昇進している。
 公聴会でガルマは、ドゥテルテ政権がいわゆる「ダバオ テンプレート」(ダバオで実施されていたドラッグ戦争の手法)を全国で採用し、ドラッグ容疑者の殺害に関わった警官に報酬を与えることも証言した。彼女によると、支払いまたは報酬には 3 つの方法があり、1つ目は殺害された容疑者 1 人についての報酬、2つ目は計画された作戦に対しての報酬、3つ目は作戦費用の返金としての報酬である。
 彼女は、また、ドゥテルテ元大統領と彼の右腕ボン・ゴー元大統領特別補佐官がこの報酬制度の監督・調整に関与していることも証言している。
 他方、自称麻薬王のエスピノサも同公聴会において、元国家警察長官のロナルド・デラロサ上院議員がレイラ・デ・リマ元上院議員を違法薬物取引の罪に陥れるために虚偽の発言をエスピノサに強要していたことを明らかにした。彼は、自身の強要された証言がデ・リマの長期の勾留につながったことを認めた。

― ドゥテルテのドラッグ戦争を称賛するも、自身の関与は否定するゴー
 ゴー上院議員は、2016年から大統領特別補佐官を務めた後、上院議員選挙運動を開始した2018年10月までのドラッグ戦争への関与を激しく否定した。彼は2019年5月に上院議員に選出されている。「大統領特別補佐官時代、私はドラッグ撲滅戦争の作戦要件に直接間接を問わず一切関与していない」と述べた。
 一方で、ゴー上院議員は、ドゥテルテのドラッグ戦争の政策が国民によって強く支持され、受け入れられていたこと、ドラッグ戦争の成果を強調した。さらに、彼は、このようなドラッグ戦争への批判はドラッグ密売人たちを喜ばせるだけだと、下院による「政治化」された(ドゥテルテ陣営を貶めるための)調査を非難すると同時に、上院での公正な調査を要求した。

― デラロサも強く否定
 デラロサもデ・リマを陥れようとするような脅迫・強要は行っていないと強く否定し、そもそもデ・リマ勾留は司法省の管轄であり自身が関与し得ない事柄であると強く主張し続けている。
 デ・リマは、エスピノサの虚偽証言について「彼のことは既に赦している」「彼と家族の命の危険の下で強要されただけだから」と、真に情報を明かすべきはドゥテルテとデラロサであるとして、「今こそ正義の名の下で彼らにツケを払わせる時だ」と語った。

― 例外は存在しない
 先週、新たに内務自治長官に就任したジョンビック・レムリアは、「未だ、下院の調査は継続中」としながらも、ドラッグ戦争で罪を明らかにされた者は全て刑罰の対象であり、そこに「例外は存在しない」と断言した。この発言は、ドラッグ戦争の容疑者としてあがっているドゥテルテ元大統領やゴー上院議員、デラロサ上院議員も、例外なく法の下で裁かれる可能性を暗に示唆している。
 また、ガルマの証言を受け、国家警察は、既に警察内での調査を開始していることを公表した。

― ICCへの情報提供の要請
 下院議員を務めたこともある人権活動家のネリ・コルメナレス弁護士は、ガルマの証言によって得られた新たなドラッグ戦争関係の証拠資料を国際刑事裁判所(ICC)に提出すべきだと述べた。彼は、10月12日の声明において、「ドゥテルテ(元大統領)とデラロサ(上院議員)の訴追を確実にするため、彼(マルコス大統領)はガルマとエスピノサの宣誓供述書をICCに提出すべきだ」と述べている。
 コルメナレス弁護士は、ICCの訴追は、2017年以来の同裁判所の膨大な文書収集により、正義への道を開くものだと述べた。彼によれば、警察のドラッグ捜査中に殺害された人々が超法規的殺害(EJK)の犠牲者であったことを証明する十分な証拠がないため、国内で法的措置を取るのは困難だと説明した。これは監視カメラの映像、警察の報告書、捜査等の資料の不足によるものであり、犠牲者の死亡証明書でさえ、死因は銃撃による傷ではなく、病気によるものと記されているからである。このように、国内での訴訟が難しい状況下で、そのEJK犠牲者の家族たちは、ICCを頼るしかない。

― ICCへの復帰はあり得ない
 しかし、マルコス大統領は、血なまぐさいドラッグ戦争の主要人物とされる人物の名前が明らかになった衝撃的な暴露証言にもかかわらず、ICCにフィリピンが復帰することはないとの断固たる姿勢を崩していない。
 「フィリピンはICCに復帰しない。このこと(新たな暴露証言)から、大統領が考えを変えて下院四委員会合同委員会の件をICCに付託するとは考えられない。」
 ルーカス・ベルサミン官房長官は記者団に宛てたメッセージで述べた。

―「アジア版NATO」の主張
 10月10日、ラオスのASEAN首脳会議に参加したマルコス大統領は、参加したASEAN首脳や中国に対し、南シナ海での行動規範に関する交渉を早急に加速するよう迫るとともに、中国政府による嫌がらせや脅迫を非難した。マルコス大統領は、実質的な進展が必要であり、すべての関係者が「真剣に相違点に対処し」、緊張を緩和することに真剣に取り組む必要があると述べた。
 アントニー・ブリンケン米国務長官は、同日、ASEAN首脳会議においてASEANの指導者に対し、南シナ海における中国の拡張主義を米国は「懸念している」と述べ、同海域での航行の自由を守ると誓った。また、ブリンケン国務長官は中国のASEAN加盟国との一連の暴力的な衝突が全面的な紛争に発展する恐れがあることを受け、重要な海上貿易ルートにおける中国の「ますます危険で違法な行動」を非難した。

―「アジア版NATO」に辟易するASEAN諸国
 ASEAN首脳会議において、中国は、「アジア版NATO」構想や「自由で開かれたインド太平洋戦略」といったあからさまな中国封じ込め戦略と、それらをフィリピンを介して推し進めようとする日米の主張を批判した。中国政府は、さらに、ASEAN首脳会議を含めた最近の各国との経済協力交渉の成果をもって、欧米からの「歪められた」主張に強く反論している。
 中国共産党機関紙『人民日報』の姉妹紙英語版The Global Timesは、南シナ海における緊張の高まりを中国と米国との覇権争いという、「意図的に間違えた枠組み」で分析する欧米の政府やメディアの姿勢を強く批判する記事をいくつも掲載している。これらの記事では、ASEAN首脳会議の近年最大の関心が繁栄と平和のための協調にあることと説明した上で、今回のASEAN首脳会議を含めた最近のマルコス大統領の南シナ海に関する発言や、その背後にいる日米を含む域外国の介入が、ASEANの繁栄と平和を妨害するものでしかないこと、多くのASEAN諸国が欧米の介入に辟易していることについて説明する。そして、ますます強化されている、一路一帯戦略を含んだ中国とASEAN諸国との経済的協調を根拠として、中国のASEAN戦略こそがASEAN諸国の期待に沿うものであることを強調する。

〈Source〉
Blinken condemns China’s ‘dangerous and unlawful’ moves in South China Sea, Aljazeera, October 11, 2024.
Bong Go defends Duterte after Garma exposé but distances self from drug war, ABS-CBN, October 14, 2024.
Bong Go: House drug war probe ‘provides avenue to twist facts’, Inquirer, October 15, 2024.
Bong Go wants Senate to probe Duterte admin’s drug war, Inquirer, October 14, 2024.
Families of EJK victims seek justice from ICC trial amid challenges in filing local cases, Philstar, October 13, 2024.
Garma apologizes drug war shortcomings in Cebu City, Inquirer, October 11, 2024.
Garma urged: Tell everything now, Inquirer, October 15, 2024.
Kerwin Espinosa claims Dela Rosa coerced him to implicate De Lima in drug trade, ABS-CBN, October 11, 2024.
Marcos urged to submit testimonies on EJK, drug war rewards to ICC, Philstar, October 13, 2024.
Philippines calls for urgency from China, ASEAN in negotiating South China Sea code, Reuters, October 11, 2024.
PNP committee to investigate Garma revelations on Duterte’s war on drugs, Inquirer, October 14, 2024.
What failure of ‘Asian NATO’ idea at ASEAN indicates: Global Times editorial, October 11, 2024.
WATCH: Garma links Duterte, Bong Go to state-sanctioned killings, ABS-CBN, October 12, 2024.

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