フィリピン政経フォーカス(7月23日-7月31日)

【写真】ドラッグ戦争殺害に関する下院調査会(右上はデ・リマ前上院議員)/via HOUSE RESUMES PROBE ON DUTERTE DRUG WAR ‘KILLINGS’, House of Representatives 19th Congress, July 30, 2024.

― カラパタン

人権団体カラパタンは、SONA後に出した7月24日の声明で、次のようにマルコス政権を非難した。

彼(マルコス大統領)は、より近代的な兵器の点でフィリピン国軍(AFP)の能力を向上させたと自慢した。しかし、隠された真実は、AFPが新たに取得した攻撃ヘリコプターと重火器が民間人に対する無差別爆撃と砲撃に使用され、民間人の生活を破壊し、経済活動を混乱させているということだ。これらの爆撃と砲撃は、2024年末までに新人民軍(NPA)を壊滅させることを目的とした残忍な反乱鎮圧作戦の一環として行われている。

反乱鎮圧作戦の特徴は、NPAの戦闘員と目された民間人の超法規的な殺害、強制失踪、違法な逮捕と勾留、脅迫、嫌がらせ、威嚇、そして、特に赤タグ付けがエスカレートしていることである。

人権侵害の被害情報を調査するフィリピン大学第三世界研究センターのダハス・プロジェクトは、マルコス・ジュニアが言及していない他の分野においても、彼のいわゆる無血ドラッグ戦争でも既に700人の死者が出ていることを明らかにしている。

― ピメンテル上院議員の批判演説

7月29日、アキノ・ピメンテル上院議員は、「国の状況は健全で改善している」とのマルコス大統領のSONAでの主張に対して、「国の状況は心配」だと真っ向から否定する長い反対演説を行った。演説原稿は25ページに及ぶ。

ピメンテル上院議員が懸念するのは、日用品価格の高騰、膨れ上がっている国家債務、汚職、住宅の提供、その他、SONAの中での多くの現実の誤認や、無視された深刻な事態について取り上げ、その根拠を述べた。

― 中国の反応

中国共産党機関紙『人民日報』の姉妹紙で主に海外ニュースを取り扱う『環球時報』の英字版であるGlobal Times紙は、南シナ海での、非常に言葉を選んだSONAが「緊張緩和」を望むマルコス大統領の姿勢の表れであるとして歓迎した。

同紙は、中国社会科学院東南アジア研究センターの徐立平所長の次のような分析を掲載している。

「マルコス・ジュニアのSONA演説と取り決めは、同政権が中国との直接対決を望んでいないことを示している。それは自国の利益に反するからだ」。

他方で、同紙は、フィリピンがこれまでも「紳士協定」(ドゥテルテ時代の不干渉の口約束)を何度も破ってきたことへの懸念とその危険性(紳士協定破りの継続がフィリピンにもたらす事態)を付け加えている。

― レイヤリングによる調査逃れ

7月29日の上院公聴会でリサ・ホンティベロス上院議員は、フィリピンのオフショア・ゲーミング(オンライン・カジノ)運営事業者(POGO)の背後にいる個人が、規制監査を回避するために国内にさまざまな会社を設立していたと述べ、マルコス大統領がPOGOの禁止を命じた後も、POGOに関連する重大犯罪の調査を続けると約束した。

ホンティべロス上院議員は、調査から逃れるためにPOGO関連企業がレイヤリング(複数の企業の間で資金移動を行うことで資金元を辿れなくする行為)を行っていると指摘し、今後、その追及に力を入れることを明らかにした。

「私たちが入手した文書から、実際にPOGOを運営している人々と(POGO運営事業者である)逃亡者をかくまっている人々を保護する(証拠となる資金の動きを追えないようにする)ため、別々の会社が設立されたようです」と、ホンティベロス上院議員は5時間に及ぶ審理を終える直前に述べた。

「調査を逃れるためにレイヤリングを使ってはならない。これは彼らの汚い手口の一部です。POGOが禁止されたからといって、私たちはその責任追及をやめないから、委員会を騙してはならない」と彼女は警告した。さらに、マルコス大統領のPOGO禁止命令を確実に成功させるには、政府の規制システムの抜け穴に対処すべきだと述べた。

― 会計士による偽証証言

7月29日、上院公聴会でパンパンガ州バンバン町のアリス・グオ元町長の会計士ナンシー・ガモは、グオ証言のいくつかを偽証だと主張した。

ガモ会計士によると、彼は、POGO関係2社の証券取引委員会への登録をきっかけに2012年からグオ元町長に雇われ、幾つものPOGO関係の手続きを行った。グオ元町長は、以前の公聴会でガモのことを知らないと証言しているが、その証言が嘘であり、POGOとグオ元町長との直接的な関係もあったはずだと彼は証言した。 ホンティべロス上院議員とガッチャリアン上院議員は、このガモ会計士の証言を強調し、今回で3回連続公聴会を欠席したグオ元町長のPOGOへの積極的関与の証拠となる点を強調した。

― 下院人権委員会によるドラッグ戦争調査

7月29日、下院人権委員会は、立法化を支援するため、前政権のドラッグ戦争作戦中の超法規的殺害(EJK)に関する調査を再開した。

この調査は、カバタアン党代表のラウル・ダニエル・マヌエル下院議員が提出した下院決議14号と、2023年11月8日にACT教師党代表のフランス・カストロ下院議員がこの件に関して行った特権演説に基づいている。

公聴会に出席した前上院議員のレイラ・デ・リマは、ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領が、2016年から2022年にかけてのドラッグ戦争中の組織的な超法規的殺害の首謀者であるとし、彼が市長を務めていた1988年から2016年までダバオ市で主導した作戦を模倣したものであると主張した。

「ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領が首謀者であることに疑いの余地はない。彼はドラッグ戦争での殺人の扇動者であり、誘発者だったからだ」と彼女は語った。

彼女は、人権委員会(CHR)の委員長を務めていたときにダバオで行われた即決処刑の調査を主導した経緯を詳細に説明した。

彼女の調査によると、ダバオで作り上げられた「ナンラバン」作戦(無力化されている容疑者をその場で殺害しながら、抵抗したためと嘘をついて殺害を正当化する作戦)、またタンデム攻撃(バイクの二人乗りで後ろの人間が銃で殺害ターゲットを撃つ、EJKで良く行われた殺害方法)で個人を標的として殺害するEJKの方法が、ダバオ警察の支援の下、警察官、および殺し屋からなる自警団によってメトロマニラやその他の都市で再現された。

「反乱軍の帰還者やディワルワルの小規模鉱山労働者から集められた民間の殺し屋が不足していなかったダバオとは異なり、国家暗殺部隊のタンデム自警団は、おそらく全員ではないが、多くはただの私服警官だ。彼らの中には民間人もいるかもしれないが、警察に雇われ、警察と連携し、殺害のために金をもらっている」とデ・リマ前上院議員は付け加えた。 

下院人権委員会のマニラ代表ビエンベニド・アバンテ委員長は、29日の人権委員会閉会の辞で「我々は引き続き前大統領を招聘し、デラロサ上院議員をこの公聴会に招聘し続けるつもりだ」と述べた。

― 側近ハリー・ロケへの中国スパイ関係追及

7月29日、リサ・ホンティベロス上院議員に率いられた上院女性委員会において、ドゥテルテ政権の元報道官ハリー・ロケが招聘され、特に中国のスパイ容疑のあるアリス・グオ町長との関わりが強いとされるPOGOであるラッキー・サウス99との繋がりについての質問がなされた。

以前、ホンティべロス上院議員は、ロケ元報道官がPOGO役員として記載されている書類を証拠として提出している。ロケ元報道官は、POGOの役員であることがラッキー・サウス99との繋がりの証拠となる訳ではないとして、その疑惑を否定した。

ロケ元報道官と上院議員たちとのやり取りは、両者ともに時に声を荒げて感情的になる場面もあった。 また、不法滞在者である中国人が発見されたベンゲット州の家の所有者ではないかと問われたロケ元報道官は、明確に否定した。

― フィリピン警察とサラ副大統領の対立

7月23日、サラ副大統領は、国家警察が副大統領府の警護から75人全員の警察官を引き上げたと述べた。彼女は、警察官の引き上げがフィリピン警察長官による指示であったことを確認したと述べた後に、自身の仕事には全く影響がないことを強調した。

ロメル・マービル警察長官は、この措置が政治的なものによるものではなく、人員不足によるものであること、副大統領の安全に脅威はないことを説明した。

後日、サラ副大統領の国家警察への不審は、彼女の私的海外旅行の際の出来事に飛び火した。サラ副大統領によれば、彼女のドイツへの私的な家族海外旅行への出発前、ニノイ・アキノ国際空港で家族の写った動画がフィリピン警察によって「悪意を持って」公開された。状況からして動画は国家警察の誰かが撮影したものであり、家族の私的な旅行の情報を拡散されること自体が、彼女と家族を脅威に陥れているとして、国家警察を強く非難した。 サラ副大統領は、この措置が政治的な嫌がらせによるものであり、嘘をつく国家警察長官にこそ脅威を感じるとしてマービル警察長官を非難した。

〈Source〉

Hontiveros: Pogos used corporate layering to evade audit, Inquirer, July 30, 2024.
HOUSE RESUMES PROBE ON DUTERTE DRUG WAR ‘KILLINGS’, House of Representatives 19th Congress, July 30, 2024.
KARAPATAN: Hidden truths on the human rights situation in PH in Marcos Jr.’s SONA, Karapatan, July 24, 2024.
Marcos Jr. picks words carefully in SONA regarding South China Sea, with ‘midterm election, US’ reliability on mind’, Global Times, June 23, 2024.
Sara Duterte says PNP removes 75 cops from her security detail, Rappler, July 23, 2024.
Vice President Sara cries ‘political harassment’ over removal of police security, Philstar, July 30, 2024.
Pimentel on Sona: ‘Nation’s state is worrisome’, Inquirer, July 31, 2024.

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Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

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