フィリピン政経フォーカス(6月14日~6月18日)

【写真】アイミー・マルコス上院議員/ via Senator wants probe into alleged anti-vax propaganda by US military, Philippine News Agency, June 19, 2024.

― フィリピン側の発表
 6月17日、フィリピンの西フィリピン海タスクフォース(NTF-WPS)は、アユンギン礁(セカンド・トーマス礁)での人員交代と物資補給の任に就いていたフィリピン沿岸警備隊の船舶が、中国側の「故意で危険な手段」により中国船舶と衝突し、曳航される事態となったことを公表した。
 NTF-WPSは、「中国の人民解放軍海軍、中国海警局、中国海上民兵の違法で攻撃的かつ無謀な行動を強く非難する。彼らの行動は、国連憲章、国連海洋法条約、2016年の仲裁裁定など、国際法に明らかに違反し、フィリピン船員の命を危険にさらし、フィリピン船に損害を与えた」と述べた。
 ジルベルト・テオドロ国防長官もこの事件を非難し、「中国の行動は(中国の)誠意と良識の表明に反する…中国の行動が南シナ海の平和と安定に対する真の障害であることが国際社会に明らかになるはずだ」と述べた。
 6月18日、フィリピン国軍関係筋の証言から上記補給任務中に中国船との衝突によってフィリピン海軍兵士1人が親指を切断し、多数が軽傷を負ったことが確認された。

― 駐フィリピン日米大使も強い非難
 遠藤和也駐フィリピン日本大使は、Xへの投稿で、西フィリピン海における中国船の「度重なる危険で攻撃的な行動」に対する日本政府の次のような深刻な懸念を表明した。
 「我々はフィリピンを支持し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持と強化において、志を同じくする国々と協力していく。」
 メアリーケイ・カールソン駐フィリピン米国大使も、こうした中国の行動を非難し、フィリピン人や船舶に与えた損害と危害を列挙した。
 「米国は、アユンギン礁付近での中国の攻撃的で危険な行動を非難する。この行動により、人身傷害が発生し、フィリピン船舶が損傷し、フィリピンの排他的経済水域内でフィリピン人に対して食料、水、および必需品を供給する合法的な海上作戦が妨害された」と同氏はXに投稿し、「自由で開かれたインド太平洋」を求めた。

― 中国側(グローバル・タイムス)の発表
 6月17日、『グローバル・タイムス』(中国共産党機関紙『人民日報』の姉妹紙で海外のニュースを中心としたタブロイド版『環球時報』の英文版)は、上述のようなフィリピン側の主張を否定し、次のような記事を掲載した。
 6月17日、中国海警局は、フィリピン船3隻が中国南沙諸島の仁愛礁沖(セカンド・トーマス礁)に不法侵入した際、法に基づき警告、阻止、乗り込み、臨検などの取締りを行った。これは、中国が新たに発表した海警機関の行政法執行手順が土曜日に発効した後、公表された初めての運用である。
 フィリピンはこの手順がどのように実施されるのかを試そうとしたが、被害者を演じて中国を中傷するフィリピンの「多地点挑発」戦略は、あらゆる必要な手段で自国の正当な利益を守るという中国の決意を揺るがすものではない、と専門家は指摘する。
 フィリピンは約束を破り、6月17日に補給船1隻とゴムボート2隻を中国南沙諸島の仁愛礁に隣接する海域に不法に進入させ、違法に「座礁」した自国の軍艦に物資を届けようとしたと、中国海警局の甘宇報道官は同日に述べた。
 さらに悪いことに、フィリピンの補給船は、通常航行中の中国船舶に故意に危険な方法で接近し、衝突した。中国海警局は法に基づき、警告を発し、阻止、乗り込み、臨検、強制退去など、取締り措置を講じたが、これらは合理的、合法的、専門的、かつ標準化されたものだった。
 我々(中国海警局)はフィリピン側に対し、あらゆる形態の侵害や挑発は無益であると改めて厳重に警告する。報道官によると、中国海警局は常に厳戒態勢を保ち、中国の領土主権と海洋権益を断固として守る用意があるという。

― ロイター調査報道
 6月14日、ロイターは、米国防省がCOVID-19パンデミック中に極秘裏に中国製ワクチンの評価を貶めるキャンペーンをフィリピンで実施していたとして、次のような調査結果を報道した。
 COVID-19パンデミックの真っ只中、米軍は、致死的なウイルスで特に大きな打撃を受けたフィリピンで、中国の影響力が拡大しているとみなし、それに対抗するための極秘作戦を開始した。
 この極秘作戦はこれまで報道されていなかった。ロイターの調査によって、中国が供給しているワクチンやその他の救命支援の安全性と有効性に疑念を抱かせることが目的だったことが判明した。フィリピン人を装う偽のインターネットアカウントを通じて、軍のプロパガンダ活動は反ワクチンキャンペーンへと変貌した。ソーシャルメディアの投稿では、フェイスマスク、検査キット、フィリピンで最初に利用可能になるワクチンである中国のシノバックワクチンの品質を非難した。

― 議員からの調査要請
 ロイターの調査報道をめぐり、その真偽を確かめるべきだとの声が数多く発せられている。
 6月16日、ACT(憂慮する教師連合)党フランシスコ・カストロ下院議員は、声明で次のように述べ、下院議長に対してロイター報告書の真偽を含めた調査の要請を行った。
 この秘密作戦による被害の程度を確認し、責任者の責任を追及することが不可欠である。フィリピンはこの作戦の標的となった地域のひとつであり、わが国の主権を守り、国民の健康を守ることはわれわれの義務である。
 6月18日、アイミー・マルコス上院議員は、ロイター調査報告について、非常に心を痛めたと語り、近いうちに上院調査会を指揮すると述べた。

― 中国での報道
 中国のグローバル・タイムスは、このロイターの調査報道に関して、次のような批判記事を掲載した。
 中国外交学院の李海東教授は『環球時報』に対し、米国が反ワクチンキャンペーンの標的としてフィリピンを選んだのは、中国を封じ込めたいという強い動機によるものだと語った。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の時代、フィリピン政府は独自の外交政策を策定し、中国との友好関係を築くことに尽力していた。これはまさに米国が見たくないことだ。米国はフィリピン国民の命と健康を犠牲にして、秘密裏に計画を進め、フィリピンに対する支配を取り戻そうとしたのだ。
 ロイターの報道は、米国がフィリピンを「駒」だけでなく「消耗品」として扱っていることを完全に暴露している。現在、米国の洗脳の下、フィリピン政府は中国に対して対決的な政策を採用しており、南シナ海問題により中比外交・経済関係の緊張が高まっている。悲しいことに、そして皮肉なことに、フィリピン国民は自国が米国との安全保障取引の対象になっていることに気づいていない。

― 見つかる過去の大規模詐欺事件との繋がり
 6月17日、上院議会でタルラック州バンバン町長アリス・グオ(郭华萍)とPOGOの問題の調査を指揮するリサ・ホンティべロス上院議員は、既に優先開発支援基金詐欺への関与で26年の懲役が確定している技術・生活資源センター元事務局長のデニス・クナナンを次回の公聴会に招聘し、違法POGOとの関係を明らかにすると述べた。
 優先開発支援基金は国会議員の裁量によって使途が決定されるもので、これまで汚職の温床として何度も廃止が求められている。
 過去の大規模詐欺事件の手がかりとして発見されたのは、2020年の国営賭博規制機関フィリピン娯楽賭博公社(PAGCO)会長(当時)アンドレア・ドミンゴ宛の手紙だ。差出人に、ラッキー・サウス99社の代表としてクナナンの名前が記載されていたのである。ラッキー・サウス99社は、バンバン町で違法POGOのハブとして一斉検挙された会社の1つ。

― 増える違法POGO
 6月13日、PAGCOのアレハンドロ・テンコ会長は、フィリピン国内において無許可で運営されているオンラインカジノ(フィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーター:POGO)は250~300軒ほどで、合法運営業者46軒の6倍に上ると述べた。
 「警察と協力して、違法運営業者を強制捜索し、閉鎖に追い込んでいます」とテンコ会長はロイター通信に語った。
 オンライン賭博業界は2016年に誕生し、賭博が禁止されている中国の顧客をターゲットにフィリピンの自由な賭博法を利用して運営業者が急成長した。最盛期にはPOGOは300軒に達し、30万人以上の中国人労働者を雇用していた。しかし、パンデミックと税制厳格化により、多くのPOGOが移転や潜伏を余儀なくされたとテンコ会長は述べた。
 現在も続く取り締まりは、人身売買、拷問、誘拐、クレジットカード、仮想通貨投資、そして「ロマンス詐欺」などの詐欺行為(犯罪者が偽のオンラインIDを使って被害者に金銭を渡すよう説得する行為)など、POGO関連の犯罪の報告がきっかけとなっている。

〈Source〉
ACT solon wants to probe alleged US Pentagon secret anti-vax campaign, Inquirer, June 16, 2024.
CCG blames PH for latest ship collision in West Philippine Sea, Inquirer, June 17, 2024.
China ships ram, tow PH vessels at Ayungin, Inquirer, June 18, 2024.
China reveals Manila is seen as nothing more than consumable, Global Times, June 16, 2024.
Hontiveros: Ex-official convicted over ‘pork’ scam may be linked to illegal POGOs in Bamban, Porac, ABS-CBN, June 17, 2024.
Imee Marcos to probe alleged US campaign vs Sinovac inoculation, Inquirer, June 18, 2024.
Pentagon ran secret anti-vax campaign to undermine China during pandemic, Reuters, June 14, 2024.
Philippines’ infringements, provocations warned, Global Times, June 17, 2024.
PH Navy sailor loses thumb, others injured in CCG ramming incident, Inquirer, June 18, 2024.
Pogo crackdown widens; ‘250 to 300’ not licensed, Inquirer, June 14, 2024.
US, Japan condemn China’s ‘repeated dangerous, aggressive actions’ vs PH, ABS-CBN, June 18, 2024.

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