フィリピン政経フォーカス(6月1日~6月12日)

【写真】ホノルルのフィリピン人コミュニティに語りかけるマルコス大統領/via .Building a Bagong Pilipinas | The qualities of the Bagong Pilipino according to President Marcos, Philippines Information Agency, January 12, 2024.

―「バゴン・ピリピナス」というキャッチフレーズ
 マルコス大統領は、すべての政府機関、国営企業、教育機関で国旗掲揚式典の後に「バゴン・ピリピナス」(直訳すると「新しいフィリピン」)賛歌の朗唱を義務付けるよう命じた。6月2日に発表された覚書によると、地方自治体もこれに倣うよう「奨励」されている。
 6月4日に大統領に代わってルーカス・ベルサミン事務局長が署名した覚書回覧第52号は、「フィリピン国民の間にバゴン・ピリピナスの統治とリーダーシップの原則をさらに浸透させる」ことを目的としている。
 官邸は、「バゴン・ピリピナス」は「統一された社会制度によって強化され、原則を守り、責任を持ち、信頼できる政府を特徴とする」と述べた。このキャッチフレーズ自体は、ラッパーのアンドリュー・E・マクレランのCMソングの一部だったため、マルコス大統領の選挙運動中に人気があった。
 「このキャッチフレーズは、社会と政府のすべての分野における根本的な社会的、経済的変革に向けた包括的な計画において、フィリピン国民が政府のすべての取り組みを支持し、参加できるようにすることを構想している」と官邸は付け加えた。

― 独裁政権を彷彿させる
 「バゴン・ピリピナス」讃歌は、大統領の亡き父で独裁者だったフェルディナンド・E・マルコス(以下、マルコス・シニア)政権のスローガン「バゴン・リプナン」(直訳すると「新しい社会」)を彷彿とさせる。このため、反発も強い。
 憂慮する教師同盟(ACT)党は、「自己中心的で戒厳令の名残」であり、マルコス政権の失敗の真実を覆い隠すとして讃歌導入を批判した。憂慮するフィリピン芸術家同盟(CAP)もマルコス・シニア時代に芸術が政権の失敗や貧困を隠蔽するために用いられたとして、同様の試みを批判している。

― 下院で進むドラッグ戦争公聴会
 6月5日、ドゥテルテ前大統領のダバオ市長時代から「ダバオ暗殺団(Davao Death Squad)」を率い、また、ドゥテルテ大統領時代にはドラッグ戦争を実地で指揮してきたと言われるリト・パタイが下院の人権委員会および公共秩序と安全に関する委員会の公聴会に召喚された。フィリピンのネットニュース・メディア、ラップラーは、この出来事を次のように語る。

 ロドリゴ・ドゥテルテ政権の6年間、警察官のリト・E・パタイが議会に呼びつけられ、議員たちから尋問を受けることになるなどまったく考えられなかった。何よりも、今回の尋問はドゥテルテの典型的なアンタッチャブルであったフィリピン国家警察(PNP)による超法規的殺害に関するものであった。
 今日、ドゥテルテ派とボンボン・マルコス政権の抗争が激化したおかげで、この考えられないことが起こっている。リト・パタイは議員の鋭い質問に固まった。彼はダバオ暗殺団による殺人を全国的に展開するために意図的にマニラに送られたのか? 共犯者は誰なのか? 何人殺したのか?
 下院の2つの委員会の公聴会が、国際刑事裁判所(ICC)に提出するために適切な多くのデータを文書化し、(その文書が)ロドリゴとサラ・ドゥテルテをハーグのシェベニンゲン刑務所に収監できる証拠を補強する一助となるのは時間の問題だろう。

―「盟友キボロイ逮捕は過剰な処罰」
 6月10日早朝、100人を超す警察官が、ドゥテルテ前大統領の盟友であった新興宗教「イエス・キリストの王国」のアポロ・キボロイ教祖および関係者を逮捕するためにダバオ市などに位置するいくつかのキボロイ所有の建物を急襲した。突入前には、キボロイの支持者らと警察官の間で緊張が高まる一幕もあった。
 自宅突入後、警察当局は、「フィリピン警察はダバオ地方裁判所の発行したキボロイと他5人に対する逮捕状3通を送達した。児童虐待、その他の性的虐待、人身売買禁止法に違反したためだ」と述べた。キボロイおよび他5人を発見することはできなかった。
 6月10日、ドゥテルテ前大統領は、キボロイ逮捕にあたり警察が「過剰で不必要な力」を使ったと非難し、これが警察官と教会員との間の緊張につながったと述べた。彼は、さらに過剰な処罰が、単に告発されただけで有罪が証明されてもいない個人に対して振るわれるようになったとして、マルコス政権を間接的に批判した。

― ドゥテルテ前大統領の上院出馬はない?
 6月11日のラジオインタビューでドゥテルテ政権時の報道官ハリー・ロケは、元大統領は政治に疲れたと確信していると語った。実際、ドゥテルテが最も熱望していることはただひとつ、ひ孫の面倒を見ることだという。
 ロケの発言は、ドゥテルテ政権下でドゥテルテ批判を精力的に展開してきたソニー・トリリャネス4世元上院議員が、ドゥテルテは2025年の上院議員に立候補するかもしれないと暴露してから1ヶ月以上経ってなされた。トリリャネス元上院議員は、自身のSNSでドゥテルテの「穏健な支持者」を目覚めさせるためにドゥテルテに関する「真実を広める」必要がある(=思わせぶりな発言でドゥテルテ支持者たちに無駄な期待を与えて振り回さず、いい加減、来年度上院選出馬の有無を明らかにする必要がある)と述べていた。

― ゼレンスキー大統領のマニラ電撃訪問
 6月2日、マルコス大統領はシンガポールで開催されたアジア安全保障会議に出席し、出席諸国に対して、南シナ海での紛争において国際法とハーグ決議を守るというフィリピンの立場の理解を求めた。
 アジア安全保障会議に出席していたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、その翌日の6月3日にマニラを電撃訪問した。アジア安全保障会議で中国のロシア支援を批判したゼレンスキー大統領は、マルコス大統領に対して、中国が6月15-17日にスイスで開催される平和会議への他国の参加を妨害していることを述べ、平和会議に参加するフィリピンがその会議で重要な役割を果たすことへの感謝の意を示した。また、ゼレンスキー大統領は、今年中にマニラにウクライナ大使館を開設する予定であることを明らかにした。
 6月11日、大統領府広報部は、マルコス大統領はスイスの平和会議に出席せず、カルリト・ガルベス・ジュニア和平・和解・統合担当大統領顧問を派遣すると発表した。

― 日本との「部隊間協力円滑化協定」締結は間近
 7月8日に日本との「2プラス2」外務・防衛閣僚協議がマニラで開催されることが関係筋から明らかにされた。2022年4月以降、2回目となる「2プラス2」協議では、フィリピン国軍と日本の自衛隊が演習等の目的で互いの領土に円滑にアクセスできるようにする「部隊間協力円滑化協定(RAA)」に調印する予定だ。
 「2プラス2」協議では、日本から上川陽子外相と木原稔防衛相、フィリピンからエンリケ・マナロ外相とジルベルト・テオドロ国防相が参加する見通し。

〈Source〉
‘Bagong Pilipinas’ hymn an old tune, bad song, gimmickry—artists, teachers, Bulatlat, June 10, 2024.
Gov’t agencies, schools ordered to recite ‘Bagong Pilipinas’ hymn, pledge in flag ceremonies, Rappler, June 9, 2024.
House investigation on drug war: Will it produce answers?, The Manila Times, June 10, 2024.
Japan and Philippines to hold ‘two-plus-two’ security talks in July, Japan Times, June 11, 2024.
Japan, Philippines ‘2-plus-2’ security talks set for July 8: source, ABS-CBN, June 11, 2024.
‘Overkill’: Rodrigo Duterte condemns police raid at Quiboloy properties, ABS-CBN, June 11, 2024.
Philippines says will buy 5 Japan-made coast guard patrol ships in $400 mn deal, ABS-CBN, May 17, 2024.
Pres. Marcos mandates ‘Bagong Pilipinas’ hymn after flag ceremonies, Philippine News Agency, June 11, 2024.
Rodrigo Duterte for senator? Roque says: ‘Mas gusto niyang maging yayo’, Inquirer, June 11, 2024.
Romualdez sees more nations backing PH in West Philippine Sea order, Inquirer, June 1, 2024.
[The Slingshot] A Duterte and Bato cop named Patay, Rappler, June 10, 2024.
Zelenskyy says Philippines to participate in peace conference, Voice of America, June 3, 2024.

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