フィリピン政経フォーカス(5月20日-5月29日)

【写真】エスクデロ新上院議長(左)と解任されたズビリ前上院議長(右)/via Villanueva: 3 to 4 of Zubiri's ‘Solid 7’ open to join Senate minority, May 28, 2024.

― ズビリ上院議長更迭
 20日、上院議員24人のうち15人の賛成を経て、ズビリ上院議員が上院議長を更迭され、フランシス・エスクデロ上院議員が新たな上院議長の座に就いた。
 議長解任後の記者会見において、ズビリ上院議員は次のように語った。

 「我々が、(憲法改正を目指す民衆運動)ピープルズ・イニシアティブに同意しなかった時、その時が(解任劇の)始まりだった。我々は憲法改正のスケジュールにも同意しなかった。その時、(上院議員の)一部の人が落胆したように感じた。そして、私が望んでいたのは上院が独立した機関であり続けることだけだが、それは困難だった。だから私はそれ(議長解任)が来るのを予期していた。」

― デラロサの裏切りにズビリ上院議員驚愕
 「これまでの政治家生活の中でいろいろと奇妙のものを見てきたつもりだが、今回が一番奇妙だ。」
 これは、ズビリ上院議員が、これまで味方だと信じ自分を支えてくれていると信じていたデラロサ上院議員が、実は議長解任決議案に賛成した15人のうちの1人だと知って発した言葉だ。
 ドラッグ戦争の責任に関して、そして、マルコス大統領の違法薬物疑惑調査委員会の立ち上げにおいても、反ドゥテルテ派議員の攻撃からデラロサを守るために相当な労力を費やし、デラロサとは強い信頼関係を構築していると信じていたのに、デラロサから裏切られた驚きからだ。

― ズビリ派は未だ最大派閥
 5月27日、ズビリ上院議員の議長解任案で’NO(否定)’を示したナンシー・ビナイ上院議員は、議長交代決議には負けたが、ズビリ上院議員の下に「結束した7人(Solid 7)」が上院議会最大の派閥であることをアピールした。「結束した7人」は、議長解任後もズビリ上院議員と共に結束することを誓ったズビリ本人を含む7人の上院議員によって結成された。
 ズビリ、ビナイの他の5人は、ソニー・アンガラ、ジョエル・ビラヌエバ、JV ・エヘルシト、シェルウィン・ガッチャリアン、ロレン・レガルダである。

― 一躍注目の的となったグオ町長
 タルラック州バンバン町長アリス・グオ(郭华萍)に対する中国スパイ容疑が国内外のメディアを賑わせている。
 バンバン町は、POGO(ポゴ)と呼ばれるオンライン・カジノの中国系企業ズアン・ユアン・テクノロジーがフィリピン国家警察によって摘発されるまで、注目されることのない静かな町だった。しかし、今年3月、国家警察の強制捜査によって202人の中国人と、その他外国人73人を含む約700人の従業員が人身売買の被害者(強制労働者)として救出されたことで、一躍注目を浴びることとなった。
 ポゴはドゥテルテ時代に、前政権と中国企業との密接な関係を利用して成長してきたと言われている。マルコス政権に入り、フィリピン各地のポゴのハブ施設がオンライン詐欺や人身売買の隠れ蓑として利用されていることが判明し、厳しい監視を受けるようになった。
 グオ町長は、バンバン町にあるポゴ所有地の半分を所有していたと判明したことから捜査当局に注目されるようになった。彼女によれば、土地は2年前の町長選立候補前に売却した。犯罪を含めポゴの活動を町長として保護するような約束はしていないと言う。一方、公表されたビデオには、田舎の一首長とは段違いの豊かな生活を送っている様子が撮影されており、8ヘクタールの広い敷地に美しい邸宅、プール、ワインセラー、倉庫、そして、高級車とヘリコプターを持つ。

― 高まる疑惑
 巨額の資産を有する町長(およびその親族)がこれまで無名であったことは、フィリピンでは非常に奇妙なことだ。強いスパイ疑いがかけられたのも、中国政府のような大きな外部からの支援がなければ、あり得ない豪奢な生活ぶりからである。調査は、彼女の身元と巨額資産の関係、そして、彼女とポゴの関係に注がれている。
 大きなポイントの一つは、彼女の出生登録が17歳の時であったことである。彼女の説明によれば、彼女は自宅出産で産まれ、その後はどこかの敷地内でホームスクールを受けていた。母は農園で働くフィリピン人家政婦で、母とはすぐに離されたという。フィリピンでは、あり得ない話ではない。しかし、産みの母親と離されていたとはいえ、巨額資産形成の基盤を相続するような環境を与えた親が子どもの出生登録をしないことがあり得るのか? そして、彼女と父親の記録があまりに少ないことも疑問を呼んでいる。
 上院調査会質疑でのグオ町長の記憶は非常に曖昧であり、証拠となり得る人名や経歴、住んでいた場所さえも回答は「分かりません」だ。
 「私はスパイではありません。私はとても傷ついています。私はスパイではありません。私はフィリピン人で、祖国を愛しています。私はスパイではないし、関係もない。」
 グオ町長は頑なに否定するが、中国スパイや犯罪を前提としたポゴとの関係に関する疑惑は高まるばかりだ。

― 一方的な禁漁措置
 5月27日、フィリピン外務省は、南シナ海で中国海警局が一方的に漁を禁止したことに対して抗議を行なった。フ外務省によれば、この中国の禁止措置は5月1日から行われており、今年9月16日まで続く。
 フィリピン外務省は、声明において、このような一方的な禁止措置が、南シナ海の緊張を高めることを強調し、加えて、両国の違いを前提とした管理を模索するマルコス大統領と習近平主席との共通理解にも反すると主張した。

― 漁民を排除することはできない
 5月24日、NGO民衆開発研究所(People Development Institute)とフィリピン大学海事・海洋法研究所がマニラで主催したフォーラムで、パラワン州ナン・マガ・マンギンギスダ広報担当者は、中国の指定する禁漁海域は漁民の生計の源であるため、フィリピン漁民がスカボロー礁に行くのを止めることはできないと語った。
 漁民の1人は次のように語った。
「本当に怖いです。しかし、私たちは漁師で、それが私たちの生計の糧なのです。私たちは彼らの法律を無視するでしょう。」
 フォーラムでは、中国によって逮捕された漁民が暴力的な扱いで負傷し、トラウマを抱えてしまっていることについても語られた。フォーラムは、フィリピン政府に対して漁民への生計支援や漁民の安全を確保する対策の重要性を語り、中国政府に対して漁民への謝罪を要求した。

〈Source〉
After Zubiri ouster, ‘Solid 7’ stays part of majority for now – Binay, Rappler, May 26, 2024.
Does Amelia Leal, Mayor Alice Guo’s alleged Filipina mother, really exist?, Rappler, May 28, 2024.
Escudero: Zubiri, allies not my enemies, ABS-CBN, May 27, 2024.
Mayor Guo: I am a Filipino, philstar, May 22, 2024.
PH fisherfolk to defy China ‘arrest threat’, ABS-CBN, May 24, 2024.
Zambales fishers reject China’s fishing ban in Philippine waters, philstar, May 28, 2024.
Zubiri bloc mulls joining Senate minority: JV Ejercito, ABS-CBN, May 23, 2024.

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