フィリピン政経フォーカス

セブ島の埠頭落成式でテープカットをするマルコス大統領とサラ副大統領/via Facebook page of Bongbong Marcos(posted May 28, 2023)

マハルリカ法案上院通過/日米比合同演習にブイ:緊張続く南シナ海/マルコス – サラ不仲の噂

*フィリピン政経フォーカスでは、隔週でフィリピンの政治経済に関する重要なトピックスを紹介します。

トピック1:マハルリカ基金法案*、数多くの批判に晒されつつも上院を通過

 マルコス大統領から上院への5月22日付けの通達において、マハルリカ基金法案が緊急法案として認定された。マルコス大統領は、「世界的な成長予測の下方修正」の下で、同基金を「経済活動と開発を刺激するための、戦略的かつインパクトのある大型インフラプロジェクトの実施を加速させる新しい成長の触媒であるとし」、また、「持続可能な国家投資ファンドの切実な必要性」を語った。

 本法案は、昨年12月に下院を通過している。今回以上に多くの批判や疑問が提示されていた下院での審議においても、マルコス大統領は同様に「緊急法案」として審議を急がせて通過させた経緯がある。

 5月29日の本法案2回目の上院議会審議においてアイミー・マルコス上院議員や野党のアキリーノ・ピメンテルⅢ世らは、法案が曖昧であることからリスクの高さに懸念を提示し、もしくは批判を述べた。そして、第3回目の審議が行われた31日、賛成19票、反対1票、棄権1票で本法案の上院通過が決定した。

 本法案は、今後、再び下院議会で審議されることとなる。

*マハルリカ投資ファンド(MIF):資源産出国や外貨準備高の豊富な国において国家の金融資産を積極運用するファンドで、ソブリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド)と呼ばれる。フィリピンでは、昨年末よりこれを作る法案が審議されている。いくつかの国でその効果が喧伝される一方で、国によっては汚職の源泉となっている。そのため、フィリピンでは、その是非や運用方法を巡って、数多くの疑問や反対が表明されてきた。

Imee, other senators raise concern vs admin-backed Maharlika bill, ABS-CBN, May 29, 2023.
Maharlika fund clears Senate hurdle, Philstar, May 31, 2023.
Marcos certifies as urgent Maharlika fund bill in Senate, ABS-CBN, May 24, 2023.

トピック2:日米比合同演習にブイ:緊張続く南シナ海

 南シナ海(フィリピンでは西フィリピン海と呼ぶ)において、中国との緊張関係が高まる最中、フィリピン政府は、日米の沿岸警備隊との共同海上警備演習の実施を決めた。3カ国による海上演習は初めて。フィリピン沿岸警備隊の報道官によると、演習は6月1日から7日までの1週間、バターン沖にて実施される。オーストラリアもオブザーバーとして参加の予定。

 南シナ海の領海問題に関して、フィリピン政府は米国主導での日豪との関係以外にも、特にベトナム政府との関係強化を積極的に進めている。昨年11月、プノンペン(カンボジア)でのASEAN首脳会議の後にマルコス大統領は、ベトナムのファム・ミン・チン首相と会談、5月のラブアンバジョ(インドネシア)でのASEAN首脳会議の際にも、再び会談を持った。政府高官の間の会談も数多く行われ、食糧安全保障等をはじめとした様々な協力関係が構築されているが、その背景には南シナ海での中国に対抗する協力関係構築がある。

 5月10日から12日の間に、フィリピンは、自国の主権を主張する係争海域にブイ5基を設置した。それに対して、ベトナムは、ベトナムの主張する領海にブイが設置されたとしてフィリピンを批判。加えて、中国もフィリピンのブイ設置に対抗するように、24日、「船舶の航行の安全性確保のため」係争海域3ヶ所にブイを設置したことを発表した。

Coast Guard installs buoys in parts of West Philippine Sea, Inquirer, May 15, 2023.
Philippines, US, Japan to hold first-ever joint coast guard exercise, Inquirer, 29, 2023.
Vietnam rebukes China, Philippines over South China Sea conduct, Asia News Network, May 19, 2023.

トピック3:マルコス – サラ不仲の噂

 5月17日、下院のナンバー2の主席副議長であったグロリア・マカパガル・アロヨ下院議員は、下院与党LAKAS-CMD内で提出された動議によって、下院の主席副議長から副議長に降格された。今回の降格人事は、アロヨ議員がマルコス大統領の従兄弟マルティン・ロムアルデス下院主席議長に対するクーデターを計画しているとの噂に対して、ロムアルデス議長が画策したものと目されている。アロヨ議員は、議長の席を狙っていることも、ロムアルデス議長との不仲についても、強く否定している。

 5月19日、今度はサラ副大統領がアロヨ下院議員の降格人事を受けてLAKAS-CMDを辞職した。アロヨ議員は、サラ副大統領の側近としてマルコス政権に参加していたとも言われており、今回のサラ副大統領の離党から、マルコス-サラの不仲を疑う者も多い。

 5月28日、セブ島スマートポート88番埠頭の落成式に出席したマルコス大統領は、記者団の前で、同席していたサラ・ドゥテルテ副大統領に対し、「私はいまだにあなたの一番のファン」と語り、二人の不仲を否定した。

Arroyo denies reports First Lady ‘gave blessings to House coup’, Inquirer, May 28, 2023.
Arroyo responds to alleged coup plot vs Romualdez, says she’s dropping ‘ambition’ to be Speaker again, Manila Bulletin, May 19, 2023.
Marcos assures post-Lakas Sara Duterte: ‘I’m still your No. 1 fan’, Inquirer, May 28, 2023.

あなたは知っていますか?

日本に送られてくるバナナの生産者たちが
私たちのために1日16時間も働いていることを

詳しく見る

最新情報をチェックしよう!
>ひとりの微力が大きな力になる。

ひとりの微力が大きな力になる。


一人ひとりの力は小さいかもしれないけれど、
たくさんの力が集まればきっと世界は変えられる。
あなたも世界を変える一員として
私たちに力を貸していただけないでしょうか?

Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

寄付する(白)