【24日=東京】6月15日、国家経済開発庁(NEDA)、環境天然資源省(DENR)、財務省、フィリピン開発アカデミーは、鉱業のあり方に関する共同報告書を発表した。この報告書は、まだ分析初期段階という断りとともに、鉱業の経済貢献の実績と鉱業促進に必要な解決すべき課題を挙げている。ドゥテルテ政権の終盤になって明確化された鉱業促進への強い意欲に対し、鉱業に反対してきた人権・環境組織や地域住民組織は、各地で報告書への反対をアピールしている。そして、6月22日、フィリピン政府は、鉱業の民主的管理のための国際的取り組みである採取産業透明性イニシアティブ(EITI)からの脱退を宣言した。
― 共同報告書
6月15日に公表された鉱業のあり方に関する共同報告書は、鉱業促進のための初期分析の結果として、フィリピン鉱業がその地域のGDPに大きく貢献してきたことを強調し、更なる経済貢献のため、社会や環境への影響を考慮に入れた包括的な鉱山開発のあり方を推奨する。包括的な鉱山開発への移行に必要な改善点として本報告書が注目するのは、開発初期段階での地域経済への利益の集中、操業中の安定的な利益の分配、閉山後の持続性の3点である。
鉱山開発初期には鉱山から分配される賃金の多くが鉱山地域外部の商業都市で利用されてしまい、操業中には国際価格等の影響で時に多くの住民の雇用が中断され、閉山後には地域が衰退する。これらの問題への対策として、鉱山企業のCSRによる地域産業の育成や鉱業利益の適切な分配を実施するといった改善点が報告書に明記されている。
― 誤魔化しの手続きで進む鉱業活動に反対!
6月18日、ベンゲット州マンカヤン町ブララカオで、村役場職員と先住民族長老たち主導の下で、クレセント鉱山開発社(CMDC)の掘削活動を阻止するためのバリケードが設置された。先住民族組織Teeng(マンカヤン語で「この村で育った先住民族」)は、先住民族権利法に規定された「自由意思に基づく事前通知を伴う合意」なしに行われているCMDCによる掘削作業に反対している。
CDMCの鉱業契約は、1996年11月12日に承認され、25年後の2021年11月11日に満了した。更新手続きが開始され、2022年3月2日、環境天然資源省(DENR)は、CMDCの鉱業契約の25年間の更新を承認した。だが、この更新手続きの際、FPICに基づく先住民族の合意手続きは行われていない。
6月17日、国家先住民族委員会(NCIP)コルディリエラ支局は、MCDC社長に対して、承認にはFPIC手続きが必要であり、法律に定められた手続きを経ない活動は操業の停止を引き起こす根拠となり得るとした書簡を送付した。
― 割れる意見と効果の薄い州政府の決断
南コタバト州では、東南アジア最大規模の銅鉱床の眠るタンパカン町での鉱山開発を巡り賛成反対両陣営の活動が活発化している。
2022年4月、南コタバト州の州議会は、州内の露天掘り採掘を拒否してきた条例を12年振りに解除する決議を行った。この決議に対してレイナルド・タマヨ・ジュニア知事が拒否権を発動するかどうかで南コタバト州は割れ、賛成派反対派両派がタマヨ知事に対して、直接対話や集会、ラリーを通して、拒否権の行使もしくは州決議の承認を訴えた。
6月1日には両派とも州庁舎のあるジェネラル・サントス市の街頭に繰り出して人々に語りかけ、集会を開催した。反対派リーダーの1人であるマーベル教区セリロ・アラン・カシカス司教は、州庁舎の前で「大多数の声に耳を傾けてください」(修正案は)「南コタバトの住民の顔に泥を塗るようなものだ」と語りかけた。他方、鉱山推進の立場をとる人々の集会にも千人を越える多くの先住民族Blaanが参加して、鉱山開発の重要性を訴えた。
6月3日、タマヨ知事は、拒否権を発動した。タマヨ知事は、拒否権発動文の中で、提案された露天掘り禁止の解除が「公共の福祉に害を及ぼし、全体的な利益に反する」と述べた。しかし、タマヨ知事は、拒否権こそ発動したものの、州議会としての「露天掘り禁止」の決断は州の権限を大きく越えたものであるため、その効力はタンパカンのような大規模な鉱山には影響しないだろうと自身の考えを述べた。彼は、さらに、環境天然資源省(DENR)が既に2021年12月に露天掘りを許可する行政令を発していることについても言及した。
6月19日、カトリック教会の社会活動ネットワークは、タンパカンで開発の進む銅鉱山プロジェクトに対する反対声明を発表した。
― 鉱業透明化のための国際イニシアティブから脱退
6月22日、フィリピンは、採取産業透明性イニシアティブ(EITI)からの正式な脱退を発表した。EITIは、鉱物資源等の開発に関わるいわゆる採取産業から資源産出国政府への資金の流れの透明性を高めることを通じて、腐敗や紛争を予防し、成長と貧困削減につながる責任ある資源開発を促進するために、政府や企業、NGOから構成される多国間枠組みである。6月20日にカルロス・ドミンゲスIII財務長官は、EITI議長宛に送った書簡において、「EITI理事会が検証を行う方法は、不当に主観的で、偏った、不公正なものであると判断する。フィリピンは、公平で透明性があり、証拠に基づく検証プロセスを実施するためのEITIの能力を信じていない」とその脱退の理由を述べた。ドミンゲス財務長官は、さらに、フィリピンには既に資源開発セクターの透明性を確保するためのプロセス、システム、人材が備わっていると強調し、「政府は、より良い資源と収益の管理を支持し続け、資源利用がオープンで説明責任を果たし、フィリピン人のニーズと願望に応えるものであることを確実にします」と宣言した。
EITI理事会メンバーでEITIフィリピン創設メンバーのシエロ・マグノ フィリピン大学経済学部准教授は、CNNのインタビューに対して、これまでのフィリピンの優れたパフォーマンスを考えるとその撤退が非常に「残念」なことである述べ、次のように語った。
「EITI実施の基本原則の1つは、市民参加機会(civic space)を保護することです。これによって説明責任を果たすことがでるのです。(略)(そして、)フィリピンの赤タグ付けや環境保護者に対する暴力を考えると、市民参加機会のあり方には疑問があります。」
「人権保護は押しつけではありません。人権保護は、私たち全員が支持し、守るべきものなのです。残念ながら、現政府は天然資源ガバナンスにおける市民参加機会を保護し、強化するためのイニシアチブを取ろうとはしていません。」
〈Source〉
Benguet IP’s Up In Arms Vs Mining Firm, JUST IN, June 18, 2022.
Benguet folk block mining company’s exploration activity, Northern Dispatch, June 18, 2022.
Church’s social action network joins opposition vs Tampakan mining project, CBCP News, June 21, 2022.
Duterte team calls for revival of mining industry, Inquirer, June 16, 2022.
Groups rally in South Cotabato as governor mulls calls to veto open-pit mining rule, Rappler, June 2, 2022.
Moral victory in South Cotabato, Inquirer, June 20, 2022.
Multi-agency report backs revival of PH mining, Inquirer, June 15. 2022.
PHL withdraws from global initiative on extractives transparency, Department of Finance, June 22, 2022.
PH withdraws from global transparency initiative on mining, fuel, CNN Philippines, June 22, 2022.
Press Statement: Social Action Network of the Philippine Church Supports the Campaign Against Tampakan Mining of the Diocese of Marble, Caritas Philippines, June 19, 2022.
Sectors unaffected by veto of South Cotabato anti-mining ban, Philstar, June 18, 2022.
South Cotabato governor vetoes SP ordinance lifting ban on open-pit mining, Mindananews, June 3, 2022.