【フィリピン選挙速報】荒れる上院選挙:大苦戦のマルコス陣営、躍進するドゥテルテ陣営

【イラスト】2025年上院選挙速報:大苦戦のマルコス陣営、躍進するドゥテルテ陣営/ChatGPT、Inquirerの選挙速報情報(5月16日9:00時点)、フィリピン・ニュース深掘り:上院選挙直前で放たれるドゥテルテ起死回生の一手:ギリギリの攻防を繰り広げるBBM 12 vs. Duter-ten+2, Stop the Attacks Campaign, May 6, 2025より筆者作成

 最後の最後、これまでの世論調査から大きく順位が変わりました。信じられない追い上げで当選圏内に滑り込んだのは、バン・アキノ候補(15位から2位)、キコ・パンギリナン候補(18位から5位)、ロダンテ・マルコレタ候補(16位から6位)、カミール・ビラール候補(14位から10位)、そして、アイミー・マルコス候補(17位から12位)です(カッコ内は今年3月末の世論調査順位と現在の開票順位)。
 3月の調査からたった1ヶ月半でのドンデン返しの理由として考えられるのは、サラ副大統領による選挙期間直前のカミールとアイミーへの支持宣言、ドゥテルテ支持票のロダンテへの集中、そして、マルコスとドゥテルテの諍いに嫌気がさした有権者の中立候補(バン、キコ)への集中です。

 マルコス陣営は事前予想に反し大苦戦を強いられています。ほぼこれで確定でしょう。
 表で示したように、昨年11月と今年3月の世論調査では、マルコス政権が支持する候補者12人(以下、連合と呼びます)のうちの8人が当選圏内にいました。マルコス大統領の姉アイミー(Imee)候補も一応、連合の一員として名前を連ねていました。しかし、最初からマルコス=ドゥテルテの和解を主張、ドゥテルテ陣営排除への反対を明言していました。つまり、アイミー候補はドゥテルテ陣営です。そのため、連合で有力とされた8人にアイミー候補は含めていません。
 しかし、実際の選挙では、連合候補は大きく支持を落としました。最後の最後に、サラ副大統領の支持を得たビラール候補は候補は一気に票を伸ばして当選確実としました。つまり、ビラールもドゥテルテ陣営に寝返ったか、少なくともサラ副大統領への弾劾裁判ではドゥテルテ陣営と歩調を合わせて反対するものと言って良いでしょう。したがって、マルコス連合から上院議員に当選したのは、5人のみということです。

 ドゥテルテ陣営、結果に対して表向き批判してはいます。しかし、本音では、会心の結果だったのではないかと思います。投票前の世論調査で当選圏内にいたのはたったの2-3人でしたが、最終的には5人が当選です。この5人には、アイミー候補とビラール候補も含みます。この中でも、ロダンテ候補の追い上げ(16位から6位)には目を見張るものがあります。
 やはり、ICCへのドゥテルテ前大統領の身柄引渡しで一気に潮目が変わったと言えるでしょう。これによって、マルコス大統領には「前大統領を欧米諸国に売り渡す売国奴」というイメージがSNSでばら撒かれました。一方、ドゥテルテ前大統領には、SNSを通して殉教者のイメージが作り上げられ、サラ副大統領は解放者として支持を集めたのです。
 マルコス政権は投票直前までドゥテルテ陣営のSNS戦略をフェイクニュースとして取り締まるのに必死でした。しかし、海外に拠点を置くそのSNS発信を抑え込むことはできませんでした。
 極め付けは、サラ副大統領の支持を利用したビラール候補への調略、その寝返りです。落選濃厚なビラール候補への支持がサラ副大統領の人気で一気に跳ね上がり、終わってみれば堂々の10位当選です。カミールはマルコス連合にも参加しているものの、これで当分の間、サラには頭が上がらなくなりました。弾劾裁判でサラ副大統領の罷免を支持するようなことは間違ってもないでしょう。

 今回、両陣営とも5人を新たに確保したことになりますので、数字の上では引き分けです。
 しかし、今回の上院選挙の争点は、7月頃に行われだろう弾劾裁判です。マルコス陣営は、非改選議員を含めて16人の弾劾賛成票を集めなければなりません。一方のドゥテルテ陣営は、9人の反対票もしくは棄権票を集める必要があります。今回非改選の上院議員は日和見組、どちらかというとサラ副大統領に同情的な議員が多い状況です。さらに、上院と仲の悪い下院が強引に通してきた弾劾裁判に対して、多くの上院議員が嫌悪感を抱いています。
 今回の上院選、もしマルコス陣営の圧倒的勝利だったなら、少ない日和見の非改選組も次回の自身の選挙を考慮に入れて、弾劾罷免に賛成票を投じるでしょう。しかし、逆にサラ人気を見せつけられた結果から、マルコス陣営がサラ副大統領を弾劾裁判で罷免することは極めて難しくなりました。2028年上院選・大統領選までにはまだ間がありますが、少なくない上院議員たちが、弾劾裁判でドゥテルテ陣営に恩を売っておくのが良いと判断しそうです。

 おそらく、今回当選するマルコス連合5人は弾劾裁判で賛成票を入れるでしょう。しかし、私が知る限り、非改選議員の中で確実に賛成票を入れるのは、リサ・ホンティべロス上院議員だけです。これで6票。今回2位当選のバンと5位当選のキコは中立派、良心派です。彼らは、マルコスのこともドゥテルテのことも嫌いです。サラを罷免したいと強く思ってはいても、下院議会での強引な弾劾裁判決議の手続きの問題を重視して、罷免反対票を入れる可能性も高いです。少なくともマルコス陣営との水面下での取引はあり得ません。
 あとは、全員、日和見です。今回の選挙で、彼・彼女らの心情は、かなりドゥテルテ側に傾きました。ドゥテルテ陣営に傾いた日和見12票から、マルコス陣営は11人、ドゥテルテ陣営は3人を引き入れれば、勝ちです。
 もちろん、今後も両陣営ともに、弾劾裁判に向けた激しい闘い、駆け引きが繰り広げられ、勝負がどちらに転ぶかは分かりません。とはいえ、今回の上院選挙に関しては、ドゥテルテ陣営の会心の勝利と言えるでしょう。

〈Source〉
フィリピン・ニュース深掘り:動き出す次期上院選挙候補者たち(1):注目すべき現職上院議員, Stop the Attacks Campaign, March 1, 2024.
フィリピン・ニュース深掘り:動き出す次期上院選挙候補者たち(2):マルコス政権が支持する次期上院選候補者の見どころ, October 11, 2024.
フィリピン・ニュース深掘り:弾劾訴訟の注目点:実は追い込まれているのは、マルコス・ロムアルデス陣営かもしれない, Stop the Attacks Campaign, December 10, 2024.
フィリピン・ニュース深掘り:2025年フィリピンの見どころ:マルコスvs.ドゥテルテ対立の正しい見方, January 12, 2025.
フィリピン・ニュース深掘り:弾劾裁判で逆転を狙う3陣営, Stop the Attacks Campaign, February 13, 2025.
フィリピン・ニュース深掘り:不可解なドゥテルテ逮捕, Stop the Attacks Campaign, March 15, 2025.
フィリピン・ニュース深掘り:上院選挙直前で放たれるドゥテルテ起死回生の一手:ギリギリの攻防を繰り広げるBBM 12 vs. Duter-ten+2, Stop the Attacks Campaign, May 6, 2025
VOTEPH2025, Inquirer, May 16, 2025.

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