【追跡】無実の罪で奪われた自由①:ハーリン・バローラの不当勾留と司法の迷走

【写真】4年にわたり勾留されるハーリン・バローラ/ハーリンの家族が提供.

勅使川原香世子(SAC)

フィリピン・ネグロス島で、女性活動家ハーリン・バロラが2022年の不当逮捕から4年もの間、自由を奪われ続けています。ハーリンは、台風被災農民を支援する人道的活動の最中に、根拠のない容疑で拘束されました。ハーリンの逮捕・勾留については、2022年4月に、「いますぐ、ハーリン・バローラを自由にせよ! ネグロスの民衆は不当逮捕された活動家や政治犯の即刻解放を求めている」という記事でお伝えしました。これからは、ハーリンの支援者らからの情報に基づき、彼女に対する審理の進捗や勾留施設における状況などを追跡調査し、連載していきます。

今回は、彼女の逮捕から現在に至るまでの不可解な経緯と、深刻な遅延を繰り返す裁判の実態を、妹のジュリアンへのオンライン・インタビューからまとめます。参考資料は文末をご参照ください。

事件は2022年2月19日午前5時頃、西ネグロス州イサベラ町カマン・カマンという農村で起きました。ハーリンは、台風被害を受けた農民の救援のために、一時的にそこに滞在しており、事件に巻き込まれました。

その日、フィリピン国軍、国家警察特殊部隊(SAF)、犯罪捜査隊(CIDG)を含む約500人もの合同部隊が、突如として地域を包囲し、9軒の家屋を強制的に捜索しました。国軍の真の標的は、フィリピン共産党軍事部門新人民軍(NPA)の高官とされるロメオ・ナンタでした。

合同部隊は、ハーリンが滞在していた家にも押し入りました。そして、彼女に対する逮捕状を提示することも、理由を説明することもなく、彼女を家から強制的に引きずり出しました。この時、家の所有者である女性が、合同部隊の行動を阻止しようとハーリンを抱きしめて必死に抵抗しました。しかしながら、国軍らは、ハーリンがナンタと一緒にいたはずだと言い、彼女を力づくで連行したのです。

合同部隊は、現場でナンタを発見することはできませんでした。

逮捕の翌日、ハーリンは「銃器・弾薬規制総合法違反(R.A.10591)」、「銃器・弾薬・爆発物の不法所持、製造、取引、取得または処分に関する法違反(R.A.9516)」、「Gun Ban(ガン・バン:銃器禁止期間)違反」の3つの容疑で起訴されました。

家族や支援者は、国軍らが提示した「証拠」は国軍による捏造であると主張しています。実際、裁判で提示された銃器や爆発物からは、ハーリンの指紋は一切検出されていません。しかし、爆発物所持の容疑は保釈が認められないため、彼女は無罪を主張しながら、東ネグロス州地方拘置所(NODJ)での長期勾留を強いられることになりました。

ハーリンの審理は、2023年10月12日に以下の⑦の段階に進んだあと、少なくとも8回にわたり審理期日が延期されました。そのため、未だに、検察からの証拠や証言に対する反論さえできずにいる状況です。次回の審理も、検察側が証人を提示することになっており、ハーリンからの反論はまだ先のことになります。なお、ハーリンは、証拠を捏造された上での「現行犯逮捕」ということなので、以下①から④の手続きを経ていません。

フィリピンにおいて、現行犯以外の場合、警察が容疑者を逮捕するまでに以下の段階を踏みます。
① 被害者や警察が検察庁に告発状を提出(告発)
② 検察官が裁判にかける理由があるかを判断(予備審問Preliminary Investigation)、この時、容疑者は反論供述書(Counter-Affidavit)を提出する機会を与えられる
③ 検察官が犯罪の疑いありと判断すれば、裁判所に起訴状を提出
④ 裁判所が容疑者を拘束する必要があると判断すれば、逮捕状発行
裁判が始まると以下のように進むことになっています。
⑤ 公開法廷で起訴状が読まれ、被告人が有罪か無罪か答える(罪状認否Arraignment)
⑥ 検察が証拠整理、証人特定、司法取引をする(公判準備Pre-trial)
⑦ 検察側と弁護側が証人尋問(公判Trial)
⑧ 裁判官が無罪か有罪か言い渡す(判決Judgment)

8回にわたる期日延期の理由は以下のようなものでした。

 ・裁判官の不在と交代: 担当裁判官の退職による欠員・不在、代理裁判官の休暇。

 ・運営上の不備: 「前の裁判が長引いたため時間がなくなった」という理由で、ハーリンがすでに法廷で待機していたにもかかわらず延期されたこともあった。

  ・検察官の不在: 検察側が出廷できないという理由で、半年以上も延期された。

  ・外部要因: 祝日や台風による延期。

一度延期が決まると、次の日程は3~6ヶ月、時には1年以上先まで延ばされます。この「司法の迷走」により、彼女は自分の潔白を法廷で証言する機会すら、2年以上与えられずにいます。

ハーリンが直面しているのは、司法の不条理だけではありません。勾留中、国軍関係者が何度も彼女を訪ね、「次はお前の妹や家族が標的だ」という直接的な脅迫を行いました。

この恐怖により、家族や支援者が公判に立ち会うことさえ、監視や拉致のリスクを伴う危険な行為となりました。2023年8月に行われた重要な予備審理(プレ・トライアル)において、ハーリンは弁護士も家族もいないたった一人の状態で出廷せざるを得ませんでした。この際、検察側は彼女の指紋がない武器を証拠として提示しましたが、彼女は法的な助言を得られないまま、沈黙を守ることしかできませんでした。

ハーリンの家族は、一年以上かけてプレ・トライアルの直前にようやく、ハーリンの弁護人を見つけました。しかしながら、日程調整が難しく、同弁護士のプレ・トライアルへの出廷は叶いませんでした。また、家族は、裁判所から2~3時間の場所に住んでおり、移動中の拉致や殺害を懸念し出廷を見送ったのです。

ハーリンの弁護士は、証拠の不十分さと公判の不当な遅延に対して、法的対抗手段を執る予定です。

ハーリンの妹は、国軍からのリスクを背負いながらも、姉のために食料や日用品を拘置所に届け、支援を続けています。小さな畑を耕作する彼女たちの両親もまた、食べることで精いっぱいの生活をしながら、農民らの尊厳や人権を守るための活動に人生を捧げてきました。ハーリンの活動は、その信念を継承したものでした。

ハーリンの事件は、単なる刑事事件ではなく、フィリピンにおける人権活動家への弾圧と、機能不全に陥った司法システムの象徴です。彼女が法廷で正しく審理される機会を得て、再び自由の身となる日まで、国際的な注目と支援が必要とされています。

今後も、ハーリンの審理をウォッチしていきます。

【参考資料】

Army official asserts arrest of CPP-NPA member in NegOcc legal, Philippine News Agency, February 23, 2022.

HE REVISED RULES OF CRIMINAL PROCEDURE (As amended, December 1, 2000), The Lawphil Project.

あなたは知っていますか?

日本に送られてくるバナナの生産者たちが
私たちのために1日16時間も働いていることを

詳しく見る

最新情報をチェックしよう!
>ひとりの微力が大きな力になる。

ひとりの微力が大きな力になる。


一人ひとりの力は小さいかもしれないけれど、
たくさんの力が集まればきっと世界は変えられる。
あなたも世界を変える一員として
私たちに力を貸していただけないでしょうか?

Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

寄付する(白)