【27日=東京】10月20日、法務省は、ドラッグ戦争の関連死に関する報告書を公表した。52事例を取り上げたこの報告書で、法務省は、殺害した警察官に多くの過失があったことを認め、数千に上るドラッグ戦争での殺害について今後も調査を進めると公表した。ようやく公開された報告書だが、不充分な内容に徹底追求の構えを見せる市民組織・政治家とドゥテルテ政権との間で応酬が交わされている。
― 殺害理由は、「抵抗した(nanlaban)」から
2016年、ドラッグのおとり捜査の際に、ジェシカ・アルバランは警察官と銃撃戦になり殺害されたと伝えられていた。しかし、その後の調査において、アルバランは銃器さえ持っていなかったことが明らかになった。
これは、20ページにまとめられた「抵抗したから殺害した」という52事例のうちの一つである。そのほとんどが、実際に死亡者が「抵抗」したのかどうかの調査を行っていないか、その関連資料の紛失と報告されている。また、明らかに、殺害した警察官の説明と検証内容が食い違っている事例も少なくない。犠牲者にはスペイン人も含まれており、スペイン政府も今回の調査の動向を見守っている。
52事例中、現在のところ唯一法廷に持ち込まれているのは、フィリピン大学学生カール・アンジェロ・アルナイス(19歳)の事例のみである。処刑スタイルと呼ばれる無抵抗の人に対する殺害や拷問が警察官によってなされた可能性があるとして、複数の警官が今なお勾留されており、そのうちの一人は勾留中に亡くなっている。
― 「甘い」処罰との批判を否定する官邸
法務省の報告書の中で、数多くの人命の喪失に関して警察官の「過失」が報告された。その結果、150人ほどの警察官が、最短31日から最長6ヶ月の停職処分を受けた。だが、降格や解雇をされた警察官はいない。そして、二つの事例に関して、刑事事件の立件が可能か検討されている。
10月21日、ハリー・ロケ大統領報道官は、刑事事件への立件も含む上述の処罰に言及し、処罰が「甘い」とのメディアの批判を否定すると同時に、政府は国民の生命に責任ある態度をとっている点を強調した。
― 改善する気がない表面的な対応
そもそも今回の報告書は4ヶ月前に既に法務省がまとめたものであり、官邸によるチェックの段階で長く止まっていた。1ヶ月前のドラッグ戦争における人道的責任に関する国際刑事裁判所の本格的調査決定を受け、報告書公表への圧力が再燃し、ようやく公表されたものであった。
遅すぎる調査結果の公表と内容そのものに関して、批判グループからの評価は著しく低い。
「法務省の本格的な調査はまだなされておらず、初期調査の結果は、既に私たちが知っている『多くの過失があった』ということだけです 」(レニー・ロブレド副大統領)
「見せかけでしかなく、本気で解決しようとするものではない」(全国人民弁護士連合エドレ・オラリア代表)
「(重要な情報のない法務省の努力は)『現政権の単なる窓の飾り付け』でしかないように見える」(人権擁護団体カラパタン クリスティーナ・パラバイ事務局長)
― 調査されるべき項目
人権擁護団体カラパタンは、次の項目に答える調査こそが必要であると述べている。
・どのような殺害パターンが行使されているのか
・誰が加害者であり、どのような根拠や命令によって、殺害が実行されたのか
・警察の作戦と大統領による警察の行動に関する宣言が意味するものは何なのか
・フィリピン薬物取締局によって報告された6151人の殺害事例のうちのわずか0.8%しか調査されていないのは何故なのか
〈Source〉
DOJ asks for patience in disclosing drug war review reports, Rappler, September 22, 2021.
Drug war death toll now at 6,165; arrested suspects at 298,348 – PDEA, Inquirer, July 28, 2021.
Drug war details out: Probe shatters cops ‘nanlaban’ narratives in 52 cases, Inquirer, October 20, 2021.
NUPL, Karapatan question DOJ’s release of info on 52 drug war deaths, Inquirer, October 20, 2021.
Palace denies gov’t too soft on cops involved in drug deaths; raps will be filed, Inquirer, October 20, 2021.
Robredo: DOJ findings on 52 drug ops deaths only confirm ‘many lapses’ in drug war, Inquirer, October 24, 2021.