【コラム】CPAウィンデル・ボランゲット代表インタビュー(2025年2月12日)

 北部山岳先住民族イゴロットの権利擁護団体であるコルディレラ人民連合(CPA)のウィンデル・ボランゲット代表にマルコス政権になってからの人権侵害の変化について話をお聞きしました。

栗田英幸(愛媛大学)

― 変わらぬ弾圧と危機
 マルコス政権になっても政府による人権侵害に関しては基本的に変わっていません。人権や環境、コミュニティ支援に関する市民組織、そして一般市民は、今でも抑圧と弾圧*を受けています。私たち、コルディリエラ民衆連合(CPA)もドゥテルテ政権時の時と変わらぬ厳しい弾圧に今なお晒され続けています。
 確かに超法規的殺害の数は減少しました。しかし、それは抑圧や弾圧の減少を意味しません。実際、私たちを含め、多くの活動家や一般の人たちが政府から「テロリスト」のレッテルを貼られています。逮捕や命の危険に晒されており、日々の生活でも自分だけでなく家族も地域内での差別や弾圧にさらされているのです。

*以下、oppressionは抑圧、crackdownやrepressionを弾圧と訳しています。


― 赤タグ付け
 2018年、ドゥテルテ政権の下、全国で600人もの人たちがテロリストのレッテルを貼られました。テロリスト指定して(彼・彼女らに対する軍や警察等の)超法規的な行為を認め、またコミュニティから孤立させる、いわゆる赤タグ付け(red-tagging)と呼ばれる政府の常套手段です。当時、CPAでは私を含めて10人くらいのスタッフがテロリスト指定されていました。
 その後、裁判所で争い、テロリスト認定を取り下げさせることに成功しました。「これで終わった、リストから名前が削除された」と皆、安心していました。
 しかし、2023年6月、4人のCPAスタッフが再びテロリストとして秘密裏に指定されていたのです。私たちがそのことを知ったのは、その1ヶ月後でした。新聞記事にそのリストが公開されていたのです。新聞掲載の翌日には、私たちの個人口座のみならず、CPAの口座そのものも凍結されてしまいました。
 皆、とても驚きました。すでに、「テロリスト」というでっち上げ作戦は終わったと思っていたからです。裁判所ではすでに「テロリスト」指定がでっち上げであることが明らかにされたにも関わらず、反テロ評議会*で私たちの名前が再び記載されたのです。マルコス政権は自身の政権が作る新しい国家は法治国家だと何度も口にしていますが、やっているのは法治に反するこのような違法行為です。

*筆者脚注「反テロ法」
 2020年、これまでの人間安全法(Human Security Act of 2007)にかわり、反テロ法(Anti-Terrorism Act of 2020)が制定された。本法は、テロリズムの防止、取り締まり、抑止を強化し、国家の安全と公共の秩序を守ることを目的としている。
 本法によって、逮捕・拘束の条件が緩和され、裁判所の令状なしに最大 14日間、さらに10日間延長可能で拘束できるようになり、「テロリストの容疑者」としての監視や資産凍結もできるようになった。さらに、大統領直属の反テロ評議会(Anti-Terrorism Council: ATC)が容疑者を「テロリスト」と指定する権限を持つ。ここでの「テロリスト」指定が、監視・拘束・資産凍結などの実行根拠になる。

― 人権侵害を正当化する法制度に変化はない
 深刻な弾圧と人権侵害は続いています。当然です。マルコスは、法治だ、民主主義だと言っていますが、人権に関する法律はドゥテルテ政権から何ら変わってないのですから。マルコス政権には、弾圧や人権侵害を止めるつもりはないのです。ドゥテルテと分断・敵対した後も同じです。
 ただ、そのやり口は大きく変わりました。先に説明したように、超法規的殺害は確かに減少しました。しかし、超法規的殺害を可能としていた反テロ法は、今も変わらず弾圧を正当化する根拠として機能を続けています。

― テロ資金供与罪の濫用
 では、どのように機能しているのでしょうか? 「反テロ法」は、テロ資金供与と称してテロ資金供与をでっち上げ、市民活動家や活動とは無関係の市民までをも次々赤タグ付けし、暴力的な監視や拘束などの人権侵害、起訴や資金凍結*を正当化しています。そのため、テロとは無関係な多くの人たちが、その被害に遭っているのです。

*フィリピンは、マネーロンダリングやテロ資金供与対策に関する国際的な基準を策定・履行する金融活動作業部会(FATF)によって、2021年6月にグレーリスト(正式名称はIncreased Monitoring List)に再び掲載された。グレーリストは、マネーロンダリングやテロ資金供与対策に「戦略的な不備」のある国・地域のリストである。グレーリストへのフィリピンの記載を受け、フィリピン政府は、リストから自国名を削除するため、テロ資金供与に対してより素早く情報を得、一時的な資金凍結を速やかに可能とする数々の制度改革を行っている。
 グレーリストへの掲載は、その国の金融機関や金融制度への国際的な不信の源となり、海外からの投融資や援助の妨げになり得る。海外からの投融資を重視するマルコス政権にとって、グレーリストからの脱却は高い優先順位を有しており、テロ資金供与への対策の充実化として、テロ資金供与罪としての起訴数の増大が改善努力を示す容易な根拠データであるとマルコス政権が認識していることは大いにありうる。しかし、こうしたグレーリストからの脱却を理由として数多くの関係ない人たちに対してフィリピンのように超法規的な対応を乱用する国も散見され、国際的な批判も強まっている

― 反テロ資金供与罪のでっち上げ
 現在、CPAで保護している女性も、単なるサリサリストア(コミュニティ内の小さな雑貨店)の店員でしかありません。しかし、共産主義ゲリラNPAに商品を販売したという理由だけで起訴され、資産も凍結され、コミュニティ内でテロリストだと宣伝され、命の危険にもさらされているのです。
 そもそもサリサリストアの店員がどうやって数多くの客をいちいちテロリストかどうか判断できるというのでしょうか?お客さんの1人1人に「あなたはテロリストですか?」と聞けば良いのでしょうか?馬鹿げています。そして、起訴内容に掲載されている彼女の販売データも完全にでっち上げです。(この件に関する店員へのインタビュー記事については、既に2月24日付けの記事にまとめています。下の参考資料を参照ください)
 こんなでっち上げの赤タグ付けが全国的に行われているのです。

フィリピン・ニュース深掘り 乱用され、でっち上げられるテロ資金供与罪, Stop the Attack Campaign, February 24, 2025.
【コラム】ドゥテルテ政権下での不当裁判と抵抗活動, Stop the Attack Campaign, August 21, 2021.

― 機能停止している裁判所と人びとのストレス
 未だに私を含めた4人のCPAスタッフが反テロ資金供与財を理由として、テロリスト指定され、司法省から起訴されたままです。その起訴内容に対して既に反論をし、また、別件で地方裁判所に反テロ法の違憲性を訴える訴訟を起こしてもいます。半年も前に、こちらが地方裁判所にテロリスト指定に関しての反論を提出しているにも関わらず、裁判所からは何の反応もありません。
 地方裁判所の手続きが進まない限り、私たちはテロリスト指定を受けたままです。法的には反論中になるのですが、フィリピンの警察や軍はそのような法的な手続きを全く気にしません。彼らは私たちを喜んで逮捕し、その後、逆らったという理由をでっち上げて殺害してしまうかもしれません。もしくは、秘密裏に私たちを拉致し殺害してしまうかもしれません。
 殺害は減っていますが、なくなっているわけではないのです。私たちも含め、テロリスト指定されている人たちの精神的なストレスは非常に高くなっています。活動家でもない人であれば尚更です。
 さらに、解決の見えない手続きもストレスを高くしています。裁判で反論するための費用は非常に高額です。多くの人が、裁判所に行くためのバス代すら工面するのが厳しい状況です。そして、高いお金を支払って法的な反論を行い、起訴を棄却に追い込んだとしても、再び別の理由をでっち上げてテロリスト指定して訴訟を起こしてくるのです。

― 口座凍結
  口座の凍結も私たちCPAのような組織にとって大きな問題です。テロリスト指定されたのは、私個人であり、CPAという組織ではありません。しかし、私が代表であることで、CPAの口座が未だに凍結されたままです。口座に関する全ての手続きが凍結されているため、口座の名義を変えることもできず、コルディリエラ地方各地で実施しているCPAの活動に大きな支障をきたしています。
 スタッフの活動費が支払えないだけでなく、各地のコミュニティ支援の活動や不当に弾圧されている人たちの擁護活動が滞ってしまっています。本来であれば政府がやらなければならない貧困層支援を私たちが実施していたのですが、それを政府が邪魔している訳です。何とも皮肉なものです。

― 継続する開発の暴力
 多国籍企業が関わる大規模な開発プロジェクトへ反対する住民の運動に対する攻撃は、変わらず非常に暴力的です。反対者たちへの赤タグ付け、軍隊や警察による嫌がらせや脅迫、銃による威嚇射撃や家屋等への放火は、ドゥテルテ政権時と全く変わりありません。
 2023年には、カリンガでダム建設に反対する住民の村に対して爆弾が投下されました。特にプロジェクトに反対している住民たちにとって、突然の何発もの爆撃は深刻なトラウマを与えることとなりました。政府は、ゲリラに対して爆撃を行ったと説明しています。その後も危険だということで、住民は畑に行くことも山や川で食べ物を採取することも禁止され、厳しい生活が続いています。
 残念ながら、この数年、日本の政治家はフィリピンでの人権問題に興味を示していないように感じます。日本の皆さんと協力関係を模索していければと考えています。

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Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

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