ケルウィン・エスピノーサに続き、
ラファエル・ラゴスも証言を撤回

【写真】過去の証言の撤回について語るラファエル・ラゴス(左)、ヴィタリアーノ・アギーレ(右)/via Another witness retracts accusations vs De Lima, says he was ‘coerced’, INQUIRE. NET, May 2, 2022., Facebook page of Vitaliano Aguirre (posted on October 10, 2017).

【東京=9日】「レイラ・デ・リマ上院議員が違法薬物の取引に関与している」と証言したラファエル・ラゴス矯正局元臨時局長・国家捜査局(NBI)元幹部(以下、ラゴス)が、ケルウィン・エスピノーサに続き、その証言を撤回した。証言の撤回は、デ・リマ上院議員への起訴を無効とせざるを得ない方向へと裁判の流れを変える可能性がある。

 4月30日、パッシグ市に受理された供述書において、ラゴスは、収監中のデ・リマ上院議員に対する自身のこれまでの供述を撤回した。デ・リマ上院議員が起訴されている裁判において、ラゴスは検察側の主要証人であり、判事はこの証言を論拠に裁判を進めてきた。オンラインメディア・ラップラーによると、この撤回によって、裁判はデ・リマ上院議員への公訴棄却へと大きく舵をきる可能性がある。

―「ヴィタリアーノ・アギーレ元司法長官に指示どおり供述するよう言われた」

 ラゴスは供述書において、当時司法相だったヴィタリアーノ・アギーレ現国家警察委員会議長(以下、アギーレ)に指示どおり供述するよう言われたことを打ち明けた。また、これまでの自身による宣誓供述書や議会での証言、司法省やその他の取り調べ機関における発言など、いかなる証言、発言にも真実はないことを全世界に宣言し公表するとも述べた。ラゴスは、当初、デ・リマ上院議員の共犯者として起訴されたが、それを取り消してもらうために嘘を強いられたというのである。実際、この証言のあと、彼の立場は容疑者から証人へと変更された。
 また、ラゴスは、「検察官ローレンス・ジョエル・タリピンも『うまく証言しろ、お前はいつも官邸に見られている』と言った」、「レイムンド・メカテ副司法相が、嘘をつくよう執拗に圧力をかけた」、「国家捜査局のレイチェル・ジュルス副長官とヴィセンテ・デ・グズマンから拘置所で嫌がらせを受けた」とも証言した。

―「2012年11月24日と12月15日にデ・リマ上院議員にカネを届けた」

 2019年6月7日、かつてデ・リマ上院議員の共犯者として容疑をかけられていたラゴス(証言当時、NBI幹部)が、司法省の証人としてモンテンルパ地方裁判所に立った。
 ラゴスは法廷において、「2012年11月24日の朝、ビリビッド刑務所に収監されている有名な受刑者ハンス・タンから、同刑務所にある局長室の自分のベッドの上に置いてあった贈り物と巨額のカネが入った黒いバッグを、デ・リマ上院議員とボディーガードのロニー・ダヤンへ届けるよう電話で指示された。そのバッグは、ジョーダンという受刑者が置いていったものだと聞いた。指示通り、2012年11月24日と12月15日の2回、パラニャーケのデ・リマ上院議員(当時、司法長官)の自宅にそのカネを届けた」と証言した。ラゴスは、デ・リマ司法長官(当時)から任命され、2012年8月から2013年3月の間、矯正局局長を兼務していた。

― 人権団体、デ・リマ上院議員の釈放とアギーレらによるラゴスへの脅迫の追及を求める

 ラゴスに名指しされたアギーレは、フィリピン英字紙インクワイアラーとのインタビューにおいて、ラゴスの証言を全面的に否定した。ラゴスによる証言は2017年から2019年にかけて続いたが、アギーレ自身は2018年に司法相の座を退いておりラゴスに証言を強要することなどできないというのである。アギーレは司法相のあと、現職の国家警察委員会議長に任命された。
 また、司法省は、ラゴスによる証言の撤回が公表された数時間後に、この撤回はデ・リマ上院議員とダヤンへの容疑に対する強力な証拠を崩すことはできないと声明を出した。
 他方、ヒューマンライツ・ウォッチやフィリピンの人権擁護団体カラパタンなどは、検察は政治的動機によるデ・リマ上院議員への起訴を即刻取り下げ、同議員を釈放し、また、アギーレによるラゴスへの脅迫と一連の告発におけるアギーラの役割を捜査するよう求めている。

― ケルウィン・エスピノーサによる証言の撤回

 ラゴスによる供述の撤回に先立ち、2022年4月26日、自称ドラッグ商人エスピノーサが、デ・リマ上院議員のドラッグ取引への関与を示した過去の供述を撤回した。
 撤回した供述は、エスピノーサが2016年12月14日に提出した自身へのドラッグ取引に関する容疑への反論供述書や、父親ロナルド・エスピノーサ・シニア アルブエラ町長に関する上院公聴会においてなされたものである。エスピノーサ・シニア町長は、ドラッグ取引の容疑で収監中に、拘置所内で警官に撃たれて死亡した。警官は、エスピノーサ・シニア町長が所持していた銃で発砲したために、射殺したという。
 ベネディクト・マルコンテント検事総長は、エスピノーサの過去の供述の撤回が、デ・リマ上院議員の裁判に影響することはないと発言した。

― ドゥテルテ大統領の宿敵デ・リマ上院議員

 デ・リマ上院議員は、同議員が司法長官だった2012年にドラッグシンジケートから口止め料を受け取ったという容疑のために、2016年2月に逮捕され、それ以来収監されている。同議員は容疑を否認しており、また、国内外の人権団体や弁護士団体などは容疑を口封じのためのでっち上げであるとして非難してきた。ローマ教皇が、デ・リマ上院議員の誕生日に励ましの公開メッセージを出したこともあるほど、同議員の収監は国際的に注目を集めてきた。
 デ・リマ上院議員は、ドゥテルテ大統領がダバオ市長であった時代からの宿敵である。同議員は以前から、国家人権委員会のトップ、あるいは、司法長官として、ダバオ市長時代のドゥテルテ氏が同市において組織していたとされる暗殺部隊(Death Squad、以下DDS)について追及しており、ドゥテルテ氏は、当時司法長官だったデ・リマ上院議員を公に馬鹿にしたり非難したりしていた。
 2015年、つまり、ドゥテルテ氏が大統領に就任する以前から、デ・リマ上院議員らの働きによってDDSの存在が明らかにされ、元DDSメンバーによる証言もなされていた。しかし、国民は2016年5月、ドゥテルテ氏を大統領に選んだ。同氏の大統領就任後、公の場におけるドゥテルテ大統領のデ・リマ上院議員への誹謗中傷が止むことはなく、就任から7ヶ月後、デ・リマ上院議員は逮捕・収監された。

 デ・リマ上院議員は、違法薬物取引関連の容疑で5年にわたり勾留される身の上だが、本日投票日を迎えた選挙において、上院議員への再選を目指す。

〈Source〉
Another witness retracts accusations vs De Lima, says he was ‘coerced’, INQUIRE. NET, May 2, 2022.
DOJ insists case vs De Lima strong after star witness recants testimony, philstar, May 2, 2022.
DOJ: Ragos’ retraction can’t ‘destroy strength of evidence’ of prosecution, INQUIRE. NET, May 2, 2022.
Ex-DOJ chief Aguirre dares Ragos: File a case against me, INQUIRE. NET, May 4, 2022.
Facing separate drug rap, Kerwin Espinosa recants allegations vs De Lima, philstar, April 28, 2022.
I delivered kickbacks to De Lima on inmate’s order, says ex-BuCor chief, Rappler, Jun 7, 2019.
Karapatan reasserts call to free Senator De Lima as key witness retracts allegations, Karapatan, May 3, 2022.
Kerwin Espinosa recants drug trade accusations vs Sen. Leila de Lima, INQUIRE, April 28, 2022.
Philippine mayor, on president’s drug list, killed in jail cell, CBS NEWS, November 5, 2016.

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