フィリピン政経フォーカス(10月7日-11月3日)

【写真】SALNの再厳格化を提案するオンブズマン・レムリア/via . Remulla to issue memo reversing SALN restrictions, Philippine News Agency, October 10, 2025.

― ICIが疑わしき6人の名前を公表
 10月30日、インフラ独立委員会(Independent Corruption Investigators, ICI)は、フィリピン公共事業道路省(DPWH)の洪水制御事業に関連して、6人の議員および政府高官が汚職に関与した疑いがあるとする調査報告書を公表した。この報告書は、特定の政治家や元官僚、建設業者が、疑わしい契約や予算配分に関与していたとする複数の文書と証言を含んでいる。
 上院議員のジンゴイ・エストラーダは、洪水制御事業に関連する不正行為に関与した可能性があるとして、ICI から訴追を勧告された一人である。同じく上院議員のジョエル・ビリャヌエバも、事業の契約過程において不正な利益供与に関わった疑いがあるとして報告書に記載された。下院議員のザルディ・コは、DPWHの職員証言などを背景に、プロジェクトに関連する便宜供与や不正な契約のあっせんに関わった可能性があるとして名前が挙がっている。
 さらに、行政側の関係者として3人が調査対象に含まれ、プロジェクトに関連する不正な調整や利益供与に関与した可能性があると公表された。

― DPWH幹部、プロジェクトの一部が「災い」となっていることを認める
 10月27日、フィリピン上院ブルーリボン委員会の公聴会において、DPWHの幹部レイモンド・パドゥアは、洪水制御事業の一部が本来の目的と逆行し、地元住民にとって「災い(bane)」となっていることを認めた。
 彼は、いくつかの洪水対策工事が、かえって水の流れを阻害し、また、周辺の農地や住居に予期せぬ浸水を引き起こしていることを説明し、「地域社会の利益ではなく、むしろ害となった事例がある」と述べた。
 エルウィン・トゥルフォ上院議員はこの証言を受け、同事業が本来掲げていた「災害からの保護」という目的が形骸化していることを強く批判。「莫大な予算が使われたにもかかわらず、実際には洪水リスクが軽減されていない」と述べ、監査や再評価の必要性を強調した。

― 市民団体からの提案
 フィリピンの市民団体連合Social Watch Philippines(SWP)とAlternative Budget Initiative(ABI)は、政府が提案した予算が最終的に法律として承認されるまでの変化を可視化するため、予算追跡ツール「人民予算追跡システム(People’s Budget Tracker)」を立ち上げた。このツールは、提出された国家予算案(NEP)、議会審議を経た予算法案、最終的な予算の3つの文書を比較・分析することで予算を追跡できる仕組みとなっている。
 さらに、SWP、ABI、「Institute for Leadership, Empowerment and Democracy(iLEAD)」などの団体は共同声明で、国家予算に潜む「3つの悪性腫瘍」として、1)不透明な予算挿入、2)年末に急増する不審な支出、3)各機関の成果指標との乖離を挙げた。彼らはこれを「人々の命と生活を蝕む政策的失敗」と形容し、立法府と行政府に対して、予算の編成・執行過程の説明責任を果たすよう求めた。

〈Source〉
The 6 people named in ICI report and their alleged links to flood-control mess, ABS-CBN, October 30, 2025.
DPWH: Some flood control projects a bane for communities, ABS-CBN, October 27, 2025.
Civil society organizations spot 3 ‘malignant cancer growths’ in budget, Inquirer, October 28, 2025.
From proposal to approval: Budget watchers set up tracker, Inquirer, October 15, 2025.

― ビリャヌエバ事件の情報公開
 10月30日、オンブズマンのヘスス・レムリアは、2013年から続くジョセフ・ビリャヌエバ下院議員の優先開発援助基金(PDAF)汚職事件に関する前任者の決定文書を正式に公開した。これは、オンブズマン前長官サムエル・マルティレスが2021年に「証拠不十分」を理由に不起訴とした判断を覆す形となった。
 レムリアは記者会見で、「この決定は密室で下されたもので、国民は真実を知らされなかった」と述べ、内部調査で確認された文書を公表。文書には、ビリャヌエバ議員のPDAFが「架空NGO」を通じて民間企業に流れた形跡が記載されており、資金の最終受益者が特定されていない点を問題視した。
 この公開は、オンブズマンとして極めて異例の措置であり、レムリアは「過去の不正をうやむやにすることが、現在の腐敗を助長してきた」と強調した。

― 悪しき慣習にメス
 さらにレムリアは、政治的免責や「手打ち文化(settlement deals)」を不正の温床としての悪しき慣習として指摘し、洪水制御事業をはじめとする公共インフラ関連支出に関して、これまでに「処理」されてきた事件の再捜査を指示した。彼は「説明責任はすべての公職者に平等に適用される」「選択的透明性を許さない」と述べ、過去の不正が曖昧にされたことが今日の腐敗体質を助長したと強調した。
 加えて、資産・負債・純資産報告書(SALN)の未提出問題に関しては、地方首長や高官を含む複数の事例で行政処分も視野に入れた対応強化を宣言している。

〈Source〉
1st batch of flood control raps filed by November 25, philstar, October 31, 2025.
Ombudsman: Charges vs. execs, cohorts in flood control mess by Nov. 25, GMA NEWS, October 29, 2025.
Ombudsman Remulla warns gov’t officials vs ‘selective transparency’ in SALNs, Manila Bulletin, October 14, 2025.
Ombudsman releases decisions on Villanueva’s pork barrel case, GMA NEWS, October 31, 2025.
Remulla releases predecessors’ decision on Villanueva’s PDAF case, ABS-CBN, October 31, 2025.
Remulla says former QC lawmaker to ‘tell all’ on anomalous flood control projects, ABS-CBN, October 22, 2025.

揺れる食料安全保障

― 一部で高騰する米
 農業省(DA)は、小売業者に対し、輸入米の販売価格について定められた「適正小売価格(MSRP)」を厳守するよう強く要請した。
 DAの調査によれば、一部の市場では輸入米が政府の定めたMSRPを大幅に上回る価格で販売されており、消費者への過度な価格転嫁が問題視されている。MSRPは白米で1キロあたり45ペソに設定されており、販売業者がこれを超える価格で売る場合は正当な理由と説明責任が求められる。
 農業省の報道官クリスティン・エバンスは、「政府は消費者の利益を守ると同時に、市場の透明性を確保したい」と述べ、すべての業者に対して価格の表示義務と監視体制への協力を呼びかけた。

― 米輸入をめぐる議論
 10月に入ると、政府はエルニーニョ現象による国内稲作への影響と在庫の逼迫リスクを踏まえ、一定量の米輸入を再開する可能性について検討していた。フィリピン国家食糧庁(NFA)や経済官僚の一部からは、年末にかけての需要増を見据え、「選択的輸入の容認」が議論されていたと報じられている。
 しかし、こうした見通しに対し、農家団体や一部議員からは「国内の収穫期を迎えるこの時期に輸入を認めれば、農家の出荷価格が下がり、生産意欲に悪影響を与える」との反発が強まった。
 最終的に、2025年11月1日、大統領府はNFAによる白米の輸入禁止措置を12月末まで延長することを発表した。これは「農家の収入を守るために必要な措置であり、現在の市場在庫量と価格動向から見ても、輸入の必要性は低い」との判断によるものである。

〈Source〉
DA: Rice import ban to continue through December, philstar, November 2, 2025.
Philippines eyes 1-month rice import window in January 2026, Business World, October 7, 2025.
Rice import ban extended until year-end, Inquirer, November 3, 2025.
Top economists warn vs hike in rice tariff, Inquirer, October 8, 2025.
Vendors told: Mind MSRP for imported rice, Inquire, October 24, 2025.

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