フィリピン政経フォーカス(6月25日-7月2日)

【写真】国連特別報告者アイリーン・カーン/via S6-Episode 4: Fighting Disinformation to Survive, United Nations, December 9, 2022.

― 機密費疑惑の鍵を握る?銀行記録
 フィリピン上院の弾劾裁判において、元最高裁判事であるアンソニー・カルピオは、サラ副大統領の銀行口座の記録こそが真実を解明する鍵であると訴えた。カルピオは、弾劾手続きにおいて抽象的な疑いだけでなく、客観的な財務記録の開示が不可欠であると強調し、上院に対し正式に証拠提出を命じるよう求めた。

― 上院で弾劾審理が却下されたら?
 下院の弾劾検察チームのスポークスマン、アントニオ・ブコイ弁護士は、もし上院がサラ副大統領に対する弾劾訴追を審理なく却下した場合、下院側は最高裁へ憲法判断と審理継続命令を請求する用意があると述べた。
 一方、エスクデロ上院議長は「いかなる動議も憲法違反ではなく許容される」と発言しており、上院が却下動議を受け入れたとしても、それが直ちに訴追終了を意味しないとの認識が示されている。

― ドゥテルテの市長就任はあり得るのか?
 フィリピン選挙管理委員会(COMELEC)は、ロドリゴ・ドゥテルテ元大統領のダバオ市長としての就任資格に関して、「判断はもはや当委員会の管轄ではなく、内務自治省(DILG)の判断に委ねられる」と明言した。
 COMELECジョージ・ガルシア議長によれば、ドゥテルテ元大統領は2025年5月の市長選に勝利し正式に当選が認められたものの、市長としての実際の就任・職務遂行はDILGの承認を得る必要がある。

〈Source〉
Duterte’s fate as Davao City mayor up to DILG, says Comelec, ABS-CBN, June 30, 2025.
Impeach team eyes SC plea if Senate junks case, Inquirer, June 29, 2025.
Sara Duterte trial: Carpio says bank records key to truth, Inquirer, June 30, 2025.

― 改善の兆しあるが依然として深刻
 2025年7月1日、スイス・ジュネーブにて開催された国連人権理事会において、表現の自由に関する国連特別報告者アイリーン・カーンは、フィリピンにおける市民社会の現状についての調査報告を発表した。
 この報告は、彼女が2024年1月22日から31日にかけてフィリピンを公式訪問し、政府関係者、司法機関、報道関係者、市民団体など幅広い関係者と面会・協議を行った結果をもとにしている。報告では、「一部に改善の兆しが見られるものの、市民空間に対する制度的・構造的な制約が依然として深刻である」との警鐘が鳴らされた。

― 報告書:状況報告と分析
 報告書の前半では、フィリピンの市民社会空間が直面する主要な問題として、国家関係者による「赤タグ付け」の横行が強調された。これは、活動家や人権擁護者、さらには独立系メディアに対し、「共産主義勢力の一員」との烙印を押し、監視・威嚇・法的圧力を加える手法である。
 こうした風潮は、市民活動や表現の自由に対する自己検閲を助長し、社会全体に萎縮効果をもたらしていると指摘された。また、名誉毀損が刑事罰の対象であることや、情報公開法(FOI)が依然として未制定である点も、法制度上の重大な課題として挙げられている。さらに、反テロ法が曖昧な定義のもとで恣意的に適用されることにより、国家権力による市民活動の封殺につながっていることが懸念されている。

― 報告書:提言
 報告書の後半では、こうした制約に対する具体的な提言が示されている。第1に、名誉毀損の非刑事犯罪化と、FOI法の早期制定が求められた。第2に、反テロ法の条文精査と、過度に広範な適用を避けるための法的整備が必要とされた。さらに、地方共産党の武力紛争を終わらせるための全国タスクフォース(NTF- ELCAC)については、その構造的な改革、または完全な解体が必要であるとの厳しい提言がなされた。加えて、政府機関の監視活動の透明化、市民社会との建設的対話の確立、そして国際人権基準との整合性を確保する制度設計が重要であるとされた。
 この報告は、フィリピンにおける表現の自由や市民活動の現状に対し、国際社会が引き続き強い関心を持っていることを示すものである。カーン氏自身も、政府との対話の余地は残されていると前向きな姿勢を見せており、今後はフィリピン政府による応答と、制度的改革の実行が注目される。

〈Source〉
Report of the Special Rapporteur on the promotion and protection of the right to freedom of opinion and expression, Irene Khan, Human Rights Council, June 4, 2025.
UN Rapporteur Highlights Continuing Restrictions of Civic Space in the Philippines, The Diplomat, July 1, 2025.

― 中国からの制裁
 中国政府は、フィリピンの元上院議員フランシス・トレンティーノに対し、中国の主権と海洋権益を著しく侵害したとして、渡航禁止措置を含む制裁を科した。中国外務省は、同氏の中国関連の言動が「極めて悪質で目に余る行為(egregious conduct)」に該当するとし、今回の制裁が「必要かつ適切な対応」であると主張している。
 トレンティーノは「海洋ゾーン法(Maritime Zones Act)」などの立法に関与し、南シナ海における自国の権益を法的に明文化した中心人物である。中国側は、これを自国の領有権に対する「公然たる挑戦」と受け止めており、中国共産党機関紙『人民日報』傘下の英字紙Global Timesは、「中国にとっての核心的利益を損なう行為である」と明確に批判した。
 また、中国政府は、トレンティーノが「中国脅威論」を煽り、国内世論を反中方向へ誘導しようとしたと主張している。中国の専門家である楊暁は、「彼の行動は政治的な自己利益と選挙戦略に基づいており、地域の平和と安定にとって有害である」と指摘している。

― フィリピンの反応
 中国政府によるフィリピン批判およびトレンティーノへの制裁に対し、フィリピン外務省は「中国の主権判断であることは認めるが、関係改善には逆行する」と懸念を示した。
 中国側の「重大な挑発」批判に対し、当人は制裁を「名誉の証」と受け止め、引き続き主権擁護の立場を強調している。

〈Source〉
China sanctions former Filipino lawmaker who defended Philippines’ South China Sea claims, AP News, July 1, 2025.
Chinese FM announces sanctions on former Philippine senator Tolentino, Global Times, July 1, 2025.

あなたは知っていますか?

日本に送られてくるバナナの生産者たちが
私たちのために1日16時間も働いていることを

詳しく見る

最新情報をチェックしよう!
>ひとりの微力が大きな力になる。

ひとりの微力が大きな力になる。


一人ひとりの力は小さいかもしれないけれど、
たくさんの力が集まればきっと世界は変えられる。
あなたも世界を変える一員として
私たちに力を貸していただけないでしょうか?

Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

寄付する(白)