フィリピン政経フォーカス (1月7日~1月14日)

【写真】イグレシア・ニ・クリストの全国平和集会に感謝の意を示すサラ副大統領/ Facebook of Inday Sara Duterte, January 13, 2025.

― イグレシア・ニ・クリストの全国集会
 1月13日、フィリピンのイグレシア・ニ・クリスト(INC〈フィリピンのキリスト教の教派〉)が主催する「全国平和集会」が全国各地で開催され、INCによれば信者130万人が参加した。マニラのキリノ・グランドスタンドには100万人を超す信者が参加し、平和と団結を祈願する場となった。サラ副大統領も参加し、平和の重要性を強調するとともに、イベントを組織したINCに感謝の意を表明した。
 INCは、このイベントの政治的意味合いを否定しているが、マルコス大統領とサラ副大統領との対立には以前より懸念を表していた。

― サラ支持者の圧力には屈しない
 大規模な集会から一夜明けた1月14日、フィリピン大統領府は、サラ副大統領に対する弾劾問題に関するマルコス大統領の立場が変わっていないことを明らかにした。大統領は以前から、副大統領の弾劾は国民の生活改善にはつながらず、時間の無駄であるとの見解を示す一方で、弾劾に関して司法省の判断に一任する意向を示しており、この姿勢を維持している。
 下院では、マルティン・ロムアルデス議長が、1月13日の第19議会第3会期再開時の演説で、下院の調査と監視機能を継続すると表明した。下院議会は、以下のような多くの重要な調査を昨年より引き継いで継続する。それらは、1)食品の密輸や買い占めによる物価高騰、2)フィリピン国家送電会社(NGCP)の不正支出、3)期限切れ医薬品と未活用のフィリピン健康保険公社資金、4)サラ副大統領の機密費の不正使用などである。
 ロムアルデス下院議長は、透明性と説明責任の重要性を強調し、「国民の信頼は神聖なものであり、下院はそれを裏切らない」と強調した。また、(サラ副大統領の機密費やマルコス大統領への脅迫に関する)調査中止を求める圧力に対して、「国民から託された仕事を続ける。国のためにどんな戦いからも退かない」と断言した。
 1月13日、デ・リマ元上院議員はINCの集会が弾劾の動きを止めることはできないと語り、その翌日にレムリア司法長官もサラ副大統領によるマルコス大統領への脅迫に関する調査に影響を与えることはないと力強く記者たちに語った。

〈Source〉
De Lima: INC peace rally unlikely to stop impeachment move vs VP Sara, Philstar, January 13, 2025.
INC rally won’t affect probe into Sara Duterte ‘kill’ remark — Remulla, Philstar, January 14, 2025.
NBI concludes probe into Sara Duterte’s slay threat vs Marcos, ABS-CBN, January 13, 2025.
Palace: Marcos’ stand on Sara Duterte impeachment unchanged, ABS-CBN, January 14, 2024.
Romualdez assures: House probes, oversight function to continue, Inquirer, January 13, 2025.
VP Sara Duterte thanks INC for organizing national peace rally, ABS-CBN, January 13, 2025.

― 公務員弾劾裁判所の新長官
 マルコス大統領は最近、公務員弾劾裁判所(サンディガンバヤン)の新しい長官を任命した。この裁判所は、マルコス大統領一家の不正蓄財に関する案件も取り扱っている。
 1月7日付でマルコス大統領はジェラルディン・フェイス・エコンを新しいサンディガンバヤン長官に任命した。彼女は最近退任したアンパロ・カボタヘ・タンの後任となる。新しい長官として、エコン新長官は1987年憲法により設置されたこの裁判所を統括し、汚職が疑われる公務員や関係者を裁く役割を担う。この裁判所の管轄は高位公務員に及び、横領や汚職、関連犯罪を取り扱う。

― 疑わしいエコン任命の背後
 エコンは、これまで重大な汚職事件で2人の大物政治家の無罪を支持してきた経歴を持つ。1つは、2018年のボークバレル詐欺事件でボン・レヴィリャ上院議員の無罪判決を支持したこと。もう1つは、2022年でのフアン・ポンセ・エンリレ元上院議員の上記詐欺事件関与疑惑において、彼女の判断が棄却に大きく影響したこと。
 この経歴を根拠として、マルコス大統領はエコンを長官に抜擢して、マルコス・ファミリーの不正蓄財を含む汚職に関係する司法領域を支配しようとしているのではないかとの憶測を呼んでいる。

〈Source〉
Marcos picks new chief of court that handles his family’s ill-gotten wealth cases, Rappler, January 9, 2025.
PBBM names Geraldine Faith Econg new Sandiganbayan Presiding Judge, Philippines News Agency, January 9, 2025.

― 比米日オンライン協議
1月13日、フィリピン、米国、日本の3カ国の首脳が25分間、オンライン協議を行った。文言としての明確化は避けているが、中国に対してのこれまでの3ヶ国の取り組みのさらなる連携の強化を約束し、力による一方的な東・南シナ海の現状変更への試みに反対する立場を表明した。また、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けての継続的な協力の重要性を確認した。
 15日には、マニラを訪れた岩屋外相がエンリケ・マナロ外相と会談を行い、共同記者会見において、次期米大統領の下で3ヶ国が同盟関係を継続的に高めていくことを強調した。

― 南シナ海で2隻の大型巡視船がモンスター船に対峙
 フィリピン沿岸警備隊(PCG)は、先週、南シナ海に戻ってきたと報告のあった中国海警局のモンスター船と呼ばれる大型巡視船CCG5901の活動を監視するため、同国最大級の巡視船BRPテレサ マグバウアとBRP ガブリエラ シランを南シナ海に派遣した。中国のモンスター船CCG5901は、全長165メートル、排水量1万2000トンを誇る世界最大級の巡視船であり、南シナ海での中国の存在感を示し、敵対国を威圧する象徴とされる。PCGは、フィリピンの主権と権益を守るため、これらの巡視船が中国モンスター船の動向を綿密に監視し、必要に応じて適切な対応を取ると述べた。

― 中国の反応
 今年に入り、中国政府は、フィリピンが米国の中距離ミサイル発射システム「タイフォン」を配備する明確な意図を示したことに対して、何度も強い批判を表明している。1月2日には中国外務省の毛寧報道官は、フィリピンのミサイル導入計画に対して、「地域の軍拡競争のリスクをもたらす」と強く警告し、その後も中国共産党メディアや外交官等を通して何度も警告を発している。
 また、フィリピンをはじめとする欧米諸国が、中国巡視船を「モンスター船」として意図的に脅威を煽っている点について批判する。中国共産党の英語版メディアであるGlobal Timesは、「南シナ海を混乱させている本当の『怪物』が誰であるのかは明らかである(怪物は米国だ)」との記事を10日付けの紙面に掲載した。

〈Source〉
Philippines says alarmed by Chinese ships moving closer to shore, ABS-CBN, January 14, 2025.
Trump concerns top agenda as Japanese and Philippine foreign ministers meet, Japan Times, January 15, 2025.
Who is the real ‘monster’ in the South China Sea?, Global Times, January 10, 2025.
日米比首脳テレビ会議, 外務省, January 13, 2025.

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