フィリピン政経フォーカス (11月20日-11月27日)

写真】ロペス補佐官が拘束された夜に開催されたリモート記者会見で怒りを露わにロムアルデス下院議長への罵倒を繰り返し、暗殺依頼を仄めかしたサラ副大統領/via Facebook page of Inday Sara Duterte, November 23, 2024.

― ロペス補佐官の公聴会欠席と侮辱罪
 11月20日、サラ副大統領の資金不正使用疑惑の調査を進める下院グッドガバナンス委員会は、サラ副大統領の首席補佐官ズレイカ・ロペス(以下、ロペス補佐官)を招聘した公聴会を開催した。彼女は当初予定されていた11月5日の公聴会の前日に渡米して欠席しており、海外への逃亡未遂の疑惑もかけられている。公聴会の冒頭、ロペス補佐官は、米国で病気の叔母の世話で公聴会に参加できなかったことを謝罪した。
 公聴会は、副大統領府および教育省の不透明で疑惑に塗れた機密費を含む予算の用途やその重要な情報を知るとされる職員の所在についての質疑に集中した。しかし、ロペス補佐官は、明確な回答をせず、彼女を追求する下院議員たちを怒らせるだけだった。
 ロペス補佐官の曖昧な返答は侮辱罪として告発され、その当日より次回の公聴会までの間、下院に拘束されることとなった。

― ロペス補佐官から離れないサラ副大統領
 11月22日、サラ副大統領は、弟のパオロ・ドゥテルテ下院議員の元でロペス補佐官と面会するために下院に滞在しており、彼女が解放されるか来年までは、下院にとどまり続ける意向であることを明らかにした。
 同日の夜、下院のグッドガバナンス委員会は、ロペス補佐官を下院からマンダルーヨン市にある女性矯正施設に移動するよう命じた。しかし、下院警備官ナポレオン・タースによると、その試みはサラ副大統領により妨害され、未だ実行に移せていない。

― 病院への緊急搬送
 翌日の23日朝、ロペス補佐官は、体調不良によりケソン市のセント・ルークス医療センターに緊急搬送された。
 タース警備官によると、体調不良は「パニック発作」によるものであり、検査では問題は見出されなかったとのこと。
 ロペス補佐官の身柄を矯正施設に移送する下院議会の決定に対して、サラ副大統領のほか、ロナルド・デラロサ上院議員とボン・ゴー上院議員も反対を表明した。デラロサ上院議員は、セント・ルークス医療センターにバギオ市から急遽駆けつけ、ロペス補佐官の身柄の「適切な」保護を強く訴えた。
 その後、サラ副大統領らによるロペス補佐官の矯正局移送妨害は成功し、ケソン市にある退役軍人記念医療センターへ移った。

― ロペス補佐官とは何者なのか?
 ロペス補佐官は、サラ副大統領がダバオ市長時代に父ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領(当時、ダバオ副市長)およびダバオ市議会の強力な反対を押し切って2010年に強引にダバオ市政管理官に抜擢され、それ以降、サラ副大統領の右腕として重要な業務を任されてきた。ロペス補佐官は、予算審議会で常にサラ副大統領の横に控え、質疑への対応に備えていた。
 下院のグッドガバナンス委員会は、ロペス補佐官がサラ副大統領のダバオ市長時代から現在までの予算運用を実質的に管理してきたとみなしており、資金不正利用に関する重要な情報を握る人物として特別に重要視している。

〈Source〉
House orders transfer of Sara Duterte’s chief of staff to women’s prison, Rappler, November 23, 2024.
Sara Duterte’s chief of staff falls ill, rushed to hospital, Inquirer, November 23, 2024.
VP Sara willing to stay with her detained personnel at HOR, Inquirer, November 22, 2024.
Who is Zuleika Lopez, VP Sara Duterte’s chief of staff?, Rappler, November 21, 2024.

― サラ副大統領によるマルコス殺害発言
 私が殺害されたら、BBM(マルコス大統領)、リサ・アラネタ(大統領夫人)、マーティン・ロムアルデス(下院議長)を殺すことになる
 22日の夜に行われたオンライン記者会見での、嫌悪感を露わにサラ副大統領が暗殺者について触れた後に語った発言だ(栗田注:直接、暗殺者を上記3人を殺害するために雇ったと語ったわけではない)。
 ロペス補佐官が下院に拘束されたことを受けて実施された上述オンライン記者会見で、サラ副大統領は、上記3人に対して罵詈雑言をまくし立てた(栗田注:多くの記事がマルコス大統領への暴言や脅迫について言及しているが、彼女の会話で怒りのほとんどはロムアルデス下院議長に向けられている)。サラ副大統領は、マルコス大統領がロムアルデス下院議長を管理できておらず、ロムアルデス下院議長が次期大統領を狙って暴走し、その延長でサラ副大統領の殺害を企てていることを語った。

― 過去にもあったサイコバスな発言
 サラ副大統領の数々のマルコス大統領に対する暴力的な発言のたびに、彼女に対して精神診療を実施すべきだ、副大統領職を解任すべきだとする数多くの発言が、サラ副大統領を嫌う下院議員たちから出されてきた。
 最近では、1ヶ月前にマルコス大統領の頭を切り落とす自分を想像するようになっていたこと、さらに、サラ副大統領へのマルコス政権からの抑圧が続くようであれば、アイミー・マルコス上院議員とマルコス大統領の父であるマルコス・シニア元大統領の遺骸を英雄墓地から掘り出して海に捨ててやると、盟友であるはずのアイミー上院議員に語ったことを自身の口から暴露している。

― サラ発言の影響と反論
 脅迫ともとれるサラ副大統領による過去の発言を無視してきた大統領官邸は、今回のサラ副大統領によるマルコス大統領・夫人・ロムアルデス下院議長への暗殺指示を示唆する発言に対して、身辺警備の強化という対応措置を講じたことを発表した。
 また、国家安全保障委員会も大統領への脅迫が「国家安全保障の問題」であると発言し、多くの下院議員から副大統領としての資質を問う発言が相次いでいる。
 さらに、ロムアルデス下院議長も11月25日の記者会見で、「これはジョークでは済まされない。常識を逸した発言だ。私たちの民主主義と政府、そして、国家安全保障への直接的な脅威である」として「下院議員の積極的な行動」を呼びかけた。
 マルコス大統領もドゥテルテ副大統領からの脅威と闘うことを表明した。
 これらの批判や反応に対しサラ副大統領は同日、マルコス大統領に対する暗殺発言が「論理的文脈から悪意を持って切り離された」ものであると述べた上で、大統領に対するすべての脅迫は「検証され、国家安全保障の問題として考慮される」とする国家安全保障委員会の主張に疑問を呈した。
 また、マルコス大統領の発言に対してサラ副大統領は、「ベニグノ・アキノ暗殺を企てた時、国民は反撃しなかったのか?」と記者に対して質問で答え、暗にベニグノ・アキノ暗殺の背後にマルコス・ジュニア大統領(もしくは、父であるマルコス・シニア元大統領)がいたこと、マルコス大統領が暗殺しようとする側で自分は反撃する側であることを仄めかした。
 デラロサ上院議員も11月26日、サラ副大統領が逮捕されるようなことがあれば、徹底抗戦するとのメッセージを発している。
 さらに、11月25日の記者会見でドゥテルテ前大統領も軍隊に対して、マルコス大統領の間違いを正すために軍隊が動かなければならないと語った。

〈Source〉
‘Get ready to rumble’ in case VP Duterte is arrested – Dela Rosa, Inquirer, November 27, 2024.
Philippines vice president publicly threatens to have nation’s president assassinated, CBS News, November 24, 2024.
Sara Duterte’s kill remark vs Marcos is ‘active threat’ – Palace, Inquirer, November 23, 2024.
Rodrigo Duterte called out for trying to stir military vs Marcos, Inquirer, November 27, 2024.
VP Duterte’s claim of tapping hitman for Marcos Jr. an ‘active threat’: Malacañang, ABS-CBN, November 23, 2024.
VP Duterte: Romualdez is the only person who wants to kill me, Inquirer, November 22, 2024.
VP Duterte: Speaker’s interest in presidency behind House probe into confidential funds, ABS-CBN, November 23, 2024.
VP Sara Duterte says remark vs Marcos ‘maliciously taken out of logical context’, ABS-CBN, November 25, 2024.
VP Sara fires back, tags Marcoses in Ninoy assassination, Inquirer, November 25, 2024.

― 公聴会出席するも何も訊かれぬまま退出
 度重なる招聘にも関わらず、これまで1度しか出席しなかった公聴会に、11月25日、サラ副大統領が姿を現した。
 しかし、サラ副大統領は、「グッドガバナンス委員会が開催する機密費に関する公聴会の違憲性に関する私の疑義に正式に回答しない公聴会で宣誓をするつもりはない」と、これまで記者に行なっていた回答と同様の発言を行なった(栗田注:宣誓をすることで公聴会での発言を正式な証言として取り扱うことができるが、宣誓なしには証言としての効力を持たない)。
 サラ副大統領は、ロペス補佐官の拘束延長取り消しをジョエル・チュア委員長に求めたが、チュア委員長は裁判所に訴えるべきとして彼女の要求を却下した。この後、サラ副大統領は、公聴会を退出した。公聴会の間、サラ副大統領に質問する者はいなかった。

― 「降伏」?して公聴会に出席した4人の職員
 召喚状を受け取りながら無視し続けてきた副大統領府の職員4人は、11月25日、副大統領府と教育省の予算使用に関する公聴会にようやく出席した。
 弁護士に付き添われた4人(レミュエル・オルトニオ、ジナ・アコスタ、サンシャイン・ファハルダ、エドゥアルド・ファハルダ)は、6度の招聘全てに応じなかったことによる侮辱罪での召喚であり、かつ逮捕状が発行される可能性もある中での、公聴会への出席だった。
 公聴会当日の朝、チュア委員長は、4人が「降伏」して召喚を受け入れたとインタビューで誇らしげに語っていた。

― 「降伏」?
 ロペス補佐官が参加した20日までの公聴会において明らかになったのは、機密費や他の予算が分散化されていて、スタッフの誰もその全体像を把握していないということだった。これは、ロペス補佐官や今回召喚された4人の誰かが全体像を把握する重要な情報源であるかもしれないという委員会の期待を大きく裏切るものであった。
 公聴会では、オルトニオとアコスタによって、ロペス補佐官と機密費との関わりが否定され、その窓口として、副大統領の警備責任者であるレイモンド・ダンテ・ラティカ大佐の名前が新たに挙げられた。また、ラティカ大佐への機密費の「丸投げ」がサラ副大統領の指示であることが証言されている。

〈Source〉
4 OVP employees have sent surrender feelers —Rep. Chua, GMA, November 25, 2024.
How OVP, DepEd disbursing officers violated rule on confidential funds, Rappler, November 25, 2024.
OVP exec: I left secret funds to security head as per VP Sara’s order, Inquirer, November 25, 2024.
VP Duterte on why she took oath: I have to help OVP personnel, ABS-CBN, November 25, 2024.
VP Sara, 4 OVP officials cited for contempt appear at House probe into confidential funds, Philstar, November 25, 2024.

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