フィリピン政経フォーカス(9月2日-9月11日)

【写真】記者会見においてアリス・グオがインドネシアにて拘束されたことを伝えるフィリピン国家警察報道官/via Lawmakers looking forward to grill Guo in congressional probes, Philippine News Agency, September 4, 2024.

― 数千人の信者に守られた緊張の2週間後に自首
 自称「神の御子」で「イエス・キリストの王国(KOJC)」の指導者であるアポロ・キボロイ師は、劇的な2週間の対立の末、ダバオ市で逮捕された。米国とフィリピンの両国で児童買春と人身売買の重罪で指名手配されていたキボロイ師は、彼の有する30ヘクタールの敷地に詰めかけた数千人の信者に守られていた。フィリピン国家警察(PNP)は、2週間の間、地下を含むあらゆる逃亡可能性に配慮して敷地を取り囲み、監視し続けたが、警察との激しい衝突で1人が死亡した後、9月8日についに自首したと伝えられている。

― キボロイの身の安全を求めるKOJC
 PNPによると、逮捕されたキボロイ牧師は、4人の側近とともに、軍用機でマニラのPNP本部に護送された。
 キボロイ師は、米国から懸賞金をかけられていることもあり、自身の暗殺の危険性を常に主張していた。上院議会からの招聘に関しても、身の安全を理由に断り続けていた。このため、キボロイ師逮捕の後、KOJCは、彼の身柄に関して、自宅軟禁もしくはフィリピン国軍での勾留を求めている。KOJCは、キボロイ師がこれまで新人民軍(NPA)との戦いと地方共産党の武力紛争を終わらせるための全国タスクフォース(NTF- ELCAC)の積極的な支持者であり、フィリピン国軍との信頼関係を有していることから、彼の身の安全が高まること、さらに、彼が既に74歳という高齢にあることを、その理由として挙げている。

― サラ「私は間違いを犯した。赦しを乞う」
 キボロイ師の信者と警察との緊張の中で開催された9月1日のKOJC設立39周年の記念日には、サラ副大統領も駆けつけた。
 祝賀会において、サラ副大統領は、「政治的な問題から祝賀会の出席を躊躇していたが、KOJCが襲撃に直面していると確信していたため、それ(政治的な問題)をあえて無視して参加した」と述べた。
 彼女はまた、2022年大統領選挙時のマルコス大統領と統一チームを組み、KOJCの支持を取り付けたことに関して触れ、マルコス大統領の「裏切り」(キボロイ師の逮捕を許したこと)を予期できなかったことに対して「赦してほしい」とKOJC信者たちに語った。
 このサラのマルコス批判は、副大統領として不適切だとして多くの非難が国会議員たちから噴出している。

― インドネシアで拘束
 今年7月より東南アジアに逃亡していたと目されるアリス・グオ元バンバン町長が、9月3日にインドネシアで身柄を拘束され、その2日後にインドネシアからフィリピンに引き渡された。
 帰国直後に行われた短い記者会見において、彼女は記者団に対してこう語った。「殺害予告を受け、助けを求めた。彼ら(インドネシア当局)を見て嬉しかった。安心した。」
 アリス・グオ元町長の逮捕を知ったマルコス大統領は、「法の手は長く、あなたにも届く」として、多くの疑惑について法による決着の意思を示した。

― 数多くの疑惑
 アリス・グオ元町長には、あまりにも多くの疑惑がかけられているが、彼女の国外逃亡は、その疑惑を更に広げることとなった。9月8日、レムリア司法長官は、これまでも多くの違法中国移民の受け入れを可能としてきた移民局に疑惑の目を向け、局長の更迭を要求し、翌日にマルコス大統領は移民局長の交代を告げた。
 アリス・グオ元町長の国籍や身分は偽りなのか? そうだとしたら、どのように国籍や身分を取得したのか? 人身売買や違法賭博等の違法行為に依存したフィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーター(POGO)とは共犯関係にあったのか? マネーロンダリングを行っていたのか? なぜ、町長になれたのか? 中国の潜入工作員なのか? どのような密命を受けているのか? 等々。
 アリス・グオ元町長の弁護団は、彼女の逮捕は「歓迎すべき展開」であり、彼女は「自分に向けられた疑惑や問題に答えることができる」と述べた。

― 深まる疑惑
 9月2日、下院議員らはサラ副大統領がまだ教育長官だった2022年と2023年に教育省コンピューター化プログラムに関連するすべての入札書類を公開するよう教育省に要請した。これは、同日の下院歳出委員会の公聴会において、2023年にノートパソコンやその他のICT学習教材の調達のためとされる110億ペソを超える教育省予算に関して、入札談合をはじめ、いくつもの不正疑惑が明らかになったことによる。
 「おそらく不正があったのでしょう」。この問題を提起したジル・ボンガロン下院議員は語った。「入札はあったが、なぜ最後までやり通さなかったのか理解できない。16億ペソを節約できたはずだ。1台10万ペソのノートパソコンだとしたら、何台買えただろう?」
 「つまり、入札は不正だった」と同氏は付け加えた。

― 監査委員会による返還要求
 9月4日、監査委員会(COA)は、教育省(DepEd)に対し、教育省が特定の入札プロセスを遵守しなかったために許可されずに停止されていた約120億ペソを政府に即時返金するよう命じた。さらに、サラ副大統領が同省長官として最後に行った2023年のDepEdに関する監査報告書に基づき、総額100億ペソの予算執行停止を要求した。

― サラの主張は単なる「陽動作戦」か
 サラ副大統領は、予算への批判に関してこれまで沈黙を守っていた。しかし、9月10日の下院の副大統領予算に関する公聴会で公開された録音インタビューを通して、マルティン・ロムアルデス下院議長とザルディ・コ下院歳出委員長を逆に批判した。彼女は、フィリピンの予算が彼ら2人のみによって管理されていると主張し、彼女が長官を務めていた際の教育省の予算も2人の介入によって適切に処理することができなかったと説明した。
 サラ副大統領の録音インタビューに対して、コ下院歳出委員長は、「明らかに陽動戦術だ。父親(ドゥテルテ元大統領)同様、彼女は自分が直面している本当の問題から注意をそらしたいのだ。彼女は説明したくないのだ。機密費1億2500万ペソがわずか11日間で使われ、COA自身も支出は不規則だったと述べている」と同公聴会の場で述べた。

〈Source〉
COA to DepEd: Return P12.3-B misused budget, Inquirer, September 4, 2024.
Duterte’s DepEd accused of ‘rigged bidding’ for laptops, Rappler, September 2, 2024.
Fugitive preacher wanted by FBI arrested in Philippines after fraught standoff between police and supporters, CNN, September 8, 2024.
House budget hearing: Sara Duterte’s DepEd accused of ‘rigged bidding’ for laptops, Rappler, September 2, 2024.
Sara Duterte celebrates KOJC anniversary with thousands of Quiboloy followers, Rappler, September 1, 2024.
Remulla wants Immigration chief replaced, ABS-CBN, September 9, 2024.
VP Sara apologizes anew for asking Quiboloy followers to back Marcos in 2022 polls, Philstar, September 3, 2024.

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