身をくらますスパイ容疑者/波紋を呼ぶサラ副大統領のジョーク/救出か虐待か?
身をくらますスパイ容疑者
― 身柄確保に失敗
フィリピン上院議会の議会警備官事務所(OSAA)*は、フィリピン国家警察とともに、上院議会の公聴会を欠席したアリス・グオ**元バンバン町長の自宅を訪れたが、彼女を発見することができなかった。OSAAは、登録されているグオ元町長の住所を全て調べたが、全て空振りに終わった。
上院議会は、違法POGO(フィリピンのオフショア・ゲーミング〈オンライン賭博〉事業者)を調査していた6月26日と7月10日の上院公聴会を、グオ元町長と彼女の家族、彼女の元会計士ナンシー・ガモ、元幹部デニス・クナナンが無視したことを受けて、逮捕命令を出していた。逮捕令状には、アリス・グオの身分を偽る前の名前であると思われるグオ・ファピン(郭華萍)の名前が記載されている。逮捕状の罪状は、上院議会公聴会を無視したことを根拠とした「侮辱罪」である。
グオ元町長の父親と母親(とされる男女)にも逮捕命令が出されたが、2人はすでに国外へ出国している。
* OSAAは、上院議長または秘書官の命令に従い、上院の警備と秩序維持に責任を負う上院議員の警備官であり、基本的な職務は、上院議員、事務所職員の身柄や資産の警備にある。
** これまでのStop the Attack Campaignの記事では、アリス・グオ=郭華萍として記載していたが、今回の記事は偽名発覚前後の違いについて説明しているため、アリス・グオと郭華萍(グオ・ファピン)を異なる名前(前者が偽名)として区別した。
― 私はフィリピンを愛するフィリピン人
逮捕令状が署名された7月11日、グオ元町長はフェイスブックに声明を投稿し、有権者に呼びかけ、次のようなコメントとともに自分がここにいないことをほのめかした。
「皆さんと物理的に一緒にいられなくて申し訳ありません。皆さんがいなくて寂しいです」
「私はバンバンに心を寄せるフィリピン人です。フィリピンをとても愛しています」
波紋を呼ぶサラ副大統領の「ジョーク」
― SONA欠席
7月11日、サラ副大統領は、7月22日に予定されているマルコス大統領の施政方針演説(SONA)には出席しない意向を示した。
「私はSONAには出席しません。私は自身を指定生存者*に任命します」との発言はサラ副大統領のユーモアであると捉えられている一方、彼女はSONA欠席の理由を明らかにしようとしていない。
* 国政のトップが1ヶ所に集まる施政方針演説のような行事で事故や攻撃等によって全員が国政を担えなくなる可能性を想定し、その場を欠席させて先のような非常事態の際に円滑に国政を継続させるために特別に任命される人物のこと。施政方針演説の場合、副大統領も出席するため、それ以外の人が任命されるのが一般的。
― 軽いジョークでは聞き流せない発言
マーティン・ロムアルデス下院議長は、重要なイベントへの出席を決定する権限は公務員にあるが、SONAは「わが国の指導者たちの団結と協力にとって極めて重要な瞬間」だと述べ、サラ副大統領の欠席の決断を批判した。
「これは、わが国の進歩を振り返り、課題に取り組み、将来のビジョンをまとめる機会だ。指導者たちが団結し、集団の利益に焦点を合わせるのを有権者たちに見せることに意義がある」と同議長は声明で述べた。
一方、元バヤン・ムナ党代表のネリ・コルメナレスは、サラ副大統領がSONAに欠席する可能性は、マルコス政権との決別を示す「重要な表明」だと見ている。
マニラ第3区ジョエル・チュア下院議員は、7月11日、この政治的緊張状況で、そのような発言は品位に欠け、発言すべきではないと苦言を呈すると同時に、サラ副大統領に「指定生存者」を任命する権限はないと、彼女のジョークに対して真面目な反応を示した。
救出か虐待か?子どもの救援活動と政治的抑圧
― 地方裁判所は虐待と認定
北ダバオ州タグン市の地方裁判所は、ACT(憂慮する教師同盟)党のフランス・カストロ下院議員、バヤン・ムナ党サトゥル・オカンポ元議員ら13人に対して、虐待、搾取、差別に対する児童特別保護法違反の罪で有罪判決を下した。13人は、懲役4年から6年を宣告され、連帯して2万ペソの支払いが命じられた。
この事件は、2018年に北ダバオ州タラインゴッドで起きた事件に端を発し、食糧封鎖と強制閉鎖によって危機に陥っていたというサルグプンガン・タ・タヌ・インカノガン・コミュニティ学習センターの生徒であるルマド(ミンダナオ先住民族)の未成年者14人を救出する人道ミッションが、タグム市まで生徒らを移動させたことを巡って起きている。
告発側は、この移動が、現地の警察や裁判所との調整がなされておらず、子どもたちの危険を顧みなかった拉致、虐待、搾取であると主張した。
一方、救出ミッション側は、学校が軍事化され空爆されているとの情報を受けて子どもたちが危険に晒されていると判断したことによる「救出作戦」だったと主張していた。また、当時、警察・国軍・地方裁判所は非常に非協力的であり、それら組織と協調することはできなかったと主張した。
判決は、被告らが「未成年のルマド学習者を仲間に引き留め、夜間に3時間、警察や政府機関の援助や立ち会い、未成年者の両親の書面による同意さえなしに、暗くて安全でない道路を徒歩で運び、未成年者を危険にさらす」ことで、未成年者の安全と幸福に有害な行為を行ったと述べた。
― 判決を歓迎する軍関係者
7月15日、国家安全保障会議と陸軍は有罪判決を歓迎した。
陸軍広報部長ルイ・デマ・アラ大佐は声明で、この「画期的な判決」は、先住民族の子供たちを搾取し、命を危険にさらす個人は法律で責任を問われるというメッセージを送るものだと述べた。
「タラインゴッドの先住民族の子供たちと、彼らの作戦の犠牲になった他の被害者に、ついに正義がもたらされた」「彼らの有罪判決は、我々の司法制度が実際に機能していることを強調するものだ。偽りの危険な思想にさらすことで、先住民族の子供たちの命を搾取し危険にさらした個人は、我々の法律の下で責任を問われるという明確なメッセージを送っている」と彼は付け加えた。
また、国家安全保障担当顧問のエドゥアルド・アニョは、野党指導者に対する裁判所の判決を称賛、声明で「誰も法の上に立つことはできない。社会で著名人であろうと関係なく、法は法であり、人は自分の行動に責任を負わなければならない」と述べた。
― 復讐?上院選への妨害か?
一方、オカンポ元議員とカストロ議員は共同声明を出し、判決を「不当で受け入れられないもの」と非難、「不当な有罪判決は、ルマドの子供たちの権利を支援し、擁護している人々への迫害が続いていること、およびルマドの学校やコミュニティに対する攻撃が続いていることを示している」と主張した。
カストロ議員はこの決定を「馬鹿げていて受け入れられない」と表現し、ルマドの人々や連帯する人々に対する捏造された告発、嫌がらせ、執拗な脅迫を終わらせなければならないと述べた。
マカバヤン連合のガブリエラ女性党のアーリーン・ブロサス議員とカバターン党のラウル・マヌエル議員も、この決定は不当だと非難した。
ブロサス議員は、「タラインゴッド18」はルマドの学生と教師を脅迫と嫌がらせから救う人道的努力のために国家の迫害を受けた犠牲者だと述べた。「カストロ議員は、ドラッグ戦争でドゥテルテ元大統領を、機密資金の横領でその娘サラ副大統領を、国際指名手配されている児童性的人身売買業者で(アポロ)キボロイを責任追及する運動を先導した」とマヌエル議員は指摘し、「これは彼らにとって復讐だ」「これは、カストロ率いる真の野党指導者の2025年の選挙への挑戦を阻止するための政治的策略だ」と付け加えた。
7月11日、マカバヤン連合は、11人の候補者を来年の上院選挙で選出することを明らかにしている。
〈Source〉
Bamban Mayor Alice Guo in hiding, still in PH: lawmaker, ABS-CBN, July 15, 2024.
Court convicts Rep. Castro, Satur Ocampo in child abuse case, ABS-CBN, July 15, 2024.
JOINT STATEMENT OF KA SATUR OCAMPO AND REP. FRANCE CASTRO, KARAPATAN, July 15, 2024.
Makabayan bloc to field 12-member Senate slate, philstar, July 11, 2024.
Police hunt mayor accused of being Chinese spy, BBC, July 15, 2024.
Senate fails to find Alice Guo, detains ex-accountant Gamo, ABS-CBN, July 13, 2024.
VP Duterte told: Marcos’ security not a ‘joking matter’, Inquirer, July 11, 2024.
VP Sara Duterte to skip Marcos SONA, ABS-CBN, July 11, 2024.